
こうした疑問にお答えします。
日本の特許出願の多くは、審査の過程で少なくとも一度は「拒絶理由通知」を受けます。拒絶理由通知は「このままでは特許にできない」という審査官からの通知ですが、意見書や手続補正書で適切に対応すれば、特許になる可能性は十分にあります。
ただ、外国語で書かれた明細書を翻訳して日本に出願したケース(英語で出願した外国語書面出願や、PCT国際出願の日本移行など)では、翻訳の問題が絡むことがあり、通常の出願とは違う注意点があります。この記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士・叶野徹が、翻訳出願の拒絶理由通知への対応方法を、応答期間、補正の制限、誤訳訂正書の使い方まで含めて解説します。外国の親会社の日本出願を管理している日本法人の方や、英語で先に出願した日本企業の知財担当の方にも参考になる内容です。
※2026年11月時点の特許庁の情報に基づいています。料金は特許庁の料金一覧でご確認ください。
この記事でわかること
- 翻訳出願の仕組み(外国語書面出願・PCT移行)
- よくある拒絶理由(新規性・進歩性・明確性・サポート要件など)
- 応答期間と延長(国内居住者と在外者の違い)
- 補正の制限と「最後の拒絶理由通知」
- 誤訳訂正書の使い方と費用
翻訳出願とは:外国語書面出願とPCT移行
日本では、明細書等を英語などの外国語で作成して出願し、後から日本語の翻訳文を提出する「外国語書面出願」が認められています。翻訳文の提出期限は、出願日(優先権主張がある場合は最先の優先日)から1年4か月以内です。期限までに提出がない場合、特許庁から通知があり、その通知から2か月以内に提出できますが、それも過ぎると出願は取り下げたものとみなされます。
PCT国際出願を日本に移行する場合も、優先日から30か月以内に日本語の翻訳文を提出します。いずれの場合も、審査は日本語の翻訳文をもとに行われます。外国語書面出願では、翻訳文が願書に添付された明細書等とみなされます。つまり、翻訳の質がそのまま権利の質に直結するということです。
よくある拒絶理由
翻訳出願で多い拒絶理由は、次のとおりです。
| 拒絶理由 | 内容 |
|---|---|
| 新規性(29条1項) | 出願前に同じ発明が公開されている。 |
| 進歩性(29条2項) | 先行技術から当業者が容易に発明できた。最も多い拒絶理由です。 |
| 明確性(36条6項2号) | 請求項の記載が不明確。直訳による不自然な表現や、用語の不統一が原因になりやすい。 |
| サポート要件(36条6項1号) | 請求項の発明が明細書に記載された範囲を超えている。 |
| 実施可能要件(36条4項1号) | 明細書の説明が不十分で、当業者が実施できない。 |
| 原文新規事項(49条6号) | 外国語書面出願で、明細書等(翻訳文・補正後のもの)に外国語書面に記載されていない事項が含まれている。 |
明確性の拒絶理由は、翻訳出願で特に目立ちます。たとえば、中国語の請求項をそのまま訳したために一文が極端に長くなったり、同じ部材に複数の訳語が使われていたりすると、審査官から不明確と指摘されることがあります。
応答期間と延長:国内居住者と在外者で違う
拒絶理由通知に対する応答期間(指定期間)は、国内居住者が60日、在外者(日本に住所・居所がない出願人)が3か月です。特許の審査段階の拒絶理由通知では、次のように期間を延長できます(2016年4月1日からの運用)。
| 延長の種類 | 国内居住者 | 在外者 | 手数料 |
|---|---|---|---|
| 期間内の延長請求 | 1回で2か月 | 1回目2か月+2回目1か月(最大3か月) | 1回2,100円 |
| 期間経過後の延長請求 | 期間満了後2か月以内に請求すれば2か月延長 | 51,000円 | |
期間内の延長請求には理由は不要です。期間経過後の延長請求は、すでに期間内の延長を受けている場合や、当初の期間内に意見書・補正書を提出した場合には使えません。また、拒絶査定不服審判の請求後に通知された拒絶理由通知には、この運用は適用されません。海外のクライアントとやり取りする場合は、翻訳と検討の時間を見込んで、早めに延長の要否を判断するのが安全です。
応答の基本:意見書と手続補正書
拒絶理由通知への応答は、主に次の2つで行います。
- 意見書:審査官の認定に反論し、引用文献との違いや発明の効果を説明します。
- 手続補正書:請求項を限定したり、不明確な記載を直したりします。
意見書・手続補正書の提出に特許庁の手数料はかかりません。進歩性の拒絶理由では、引用文献の組合せの論理や、発明の有利な効果を丁寧に主張することが重要です。中国や米国など他国で同じ発明の審査が進んでいれば、そこでの補正内容や審査官の判断も参考になります。必要に応じて、審査官との面接(オンラインを含む)で方針をすり合わせることもあります。
補正の制限:新規事項・シフト補正・最後の拒絶理由通知
補正は自由にできるわけではありません。主な制限は次の3つです。
補正の主な制限
- 新規事項の追加禁止(17条の2第3項):出願当初の明細書等に記載した範囲を超える補正はできません。翻訳出願では、通常の手続補正書による補正は翻訳文の範囲内に限られます(翻訳文新規事項)。
- シフト補正の禁止(17条の2第4項):拒絶理由通知を受けた後は、補正前に審査された発明と単一性を欠く別の発明に請求項を切り替えることはできません。
- 最後の拒絶理由通知後の目的制限(17条の2第5項):請求項の補正は、①請求項の削除、②特許請求の範囲の限定的減縮、③誤記の訂正、④明りょうでない記載の釈明(拒絶理由で指摘された事項に限る)のいずれかを目的とするものに限られます。
「最後の拒絶理由通知」とは、主に1回目の応答で行った補正によって新たに必要になった拒絶理由だけを通知するものです。この段階では補正の自由度が大きく下がるため、1回目の応答で、将来を見据えた補正をしておくことが大切です。拒絶理由通知の応答期間内であれば分割出願も検討できます。
誤訳訂正書:翻訳ミスを原文に基づいて直す
翻訳出願の審査で「翻訳が原文と違っていた」と気づくことがあります。たとえば、原文の"at least one"が「一つの」と訳されていた、"comprising"の訳し方で範囲が狭くなっていた、といったケースです。このような誤訳を直すときは、通常の手続補正書ではなく、誤訳訂正書を提出します。
- 誤訳訂正書では、翻訳文の範囲を超えていても、原文(外国語書面・国際出願の明細書等)に記載された範囲内であれば補正ができます。
- 誤訳訂正の理由を記載する必要があります。
- 提出できる時期は、通常の補正と同じです。
- 特許庁の手数料(補正料)は19,000円です。
- 誤訳の訂正と同時に行う通常の補正事項も、誤訳訂正書にまとめて記載できます。
逆に、原文にもない事項を補正で加えることはできません。外国語書面出願では、明細書等に外国語書面に記載されていない事項(原文新規事項)が含まれていること自体が拒絶理由になります。拒絶理由通知を受けたら、審査官の指摘への反論を考えるのと同時に、翻訳文と原文を突き合わせて確認することをおすすめします。補正の根拠にしたい記載が誤訳で欠けている場合、誤訳訂正によって道が開けることがあります。
実務での対応の流れ
海外の出願人の案件では、当事務所はおおむね次の流れで対応しています。日本の親会社・子会社間で社内調整をする場合も、同じ流れを意識すると期限に余裕が生まれます。
- ① 通知の内容を整理して報告:拒絶理由の条文、引用文献、審査官の指摘を整理し、応答期限とあわせて報告します。
- ② 翻訳文と原文の照合:指摘された請求項を中心に、翻訳文が原文と一致しているかを確認します。
- ③ 対応方針の提案:反論で行くのか、補正で範囲を絞るのか、誤訳訂正が必要かを提案します。他国の審査状況も確認します。
- ④ 方針の確定と書類作成:出願人の確認を得て、意見書・手続補正書(または誤訳訂正書)を作成します。
- ⑤ 提出と次の手当て:提出後、必要に応じて分割出願や面接も検討します。
出願人の確認に時間がかかりそうな場合は、早い段階で期間内の延長請求をしておくと安心です。期間経過後の延長請求は手数料が高く、使えない場合もあるため、あくまで最後の手段と考えてください。
拒絶査定になった場合
応答しても拒絶理由が解消しないと、拒絶査定となります。不服がある場合は、拒絶査定の謄本の送達日から3か月以内に拒絶査定不服審判を請求できます。在外者の場合、特許については職権で1か月延長され、合計でおおむね4か月となります。審判請求と同時であれば、請求項の補正(目的は上記の4つに限定)も可能です。
よくある質問
- Q. 拒絶理由通知の応答期間はどれくらいですか?
A. 国内居住者は60日、在外者は3か月です。期間内の延長請求(1回2,100円)で、国内居住者は2か月、在外者は最大3か月延長できます。 - Q. 期限を過ぎてしまいました。もう手遅れですか?
A. 期間満了後2か月以内であれば、期間経過後の延長請求(51,000円)で2か月延長できる場合があります。すでに延長を受けている場合などは使えません。 - Q. 翻訳ミスに気づいたら、どうすればいいですか?
A. 原文に記載されている範囲内であれば、誤訳訂正書(手数料19,000円)で直せます。通常の補正の時期にしか提出できないので、早めに確認しましょう。 - Q. 意見書の提出に手数料はかかりますか?
A. 意見書や通常の手続補正書には特許庁の手数料はかかりません。
まとめ
- 翻訳出願は日本語の翻訳文をもとに審査されるため、翻訳の質が権利の質に直結します。
- 応答期間は国内居住者60日、在外者3か月。期間内・期間経過後の延長制度があります。
- 補正は新規事項・シフト補正・最後の拒絶理由通知後の目的制限に注意します。
- 翻訳ミスは、原文の範囲内であれば誤訳訂正書(19,000円)で直せます。
- 拒絶理由通知を受けたら、翻訳文と原文の突き合わせも同時に行いましょう。
翻訳出願の拒絶理由通知への対応でお困りの方は、累計4,000件超の出願実績があり、すべての案件を弁理士本人が担当する特許事務所BrandAgentまでお気軽にご相談ください。
関連記事
- 特許審査ハイウェイ(PPH)で日本の特許審査を早める方法|要件・必要書類・早期審査との違いを弁理士が解説
- 特許申請に必要な書類と取り方を弁理士が解説
- 特許申請の費用はいくら?【2026年最新】出願料・審査請求料・登録料を弁理士が完全解説
- 特許年金(特許料)の納付と納め忘れの救済|追納・権利の回復・減免を弁理士が解説【2026年版】
※これまで1,000件以上の特許サポートの実績を持つ代表弁理士の叶野が、すべての案件を直接担当いたします。
お一人お一人に割ける時間に限りがあるため、本気で出願・防衛を検討されている企業様限定の窓口とさせていただいております。