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特許審査ハイウェイ(PPH)で日本の特許審査を早める方法|要件・必要書類・早期審査との違いを弁理士が解説

悩んでいる方
中国や米国で先に特許になった発明、日本の審査も早く進められないの?

こうした疑問にお答えします。

日本の特許出願は、審査請求をしてから最初の審査結果が届くまでに一定の時間がかかります。一方で、同じ発明について中国・米国・欧州などの特許庁で先に「特許可能」という判断が出ていれば、その結果を使って日本の審査を早めてもらえる制度があります。それが特許審査ハイウェイ(PPH:Patent Prosecution Highway)です。

この記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士・叶野徹が、PPHの仕組みと要件、必要書類、請求項の「十分な対応」の考え方、そして国内の早期審査との違いを解説します。中国企業の日本法人・日本の代理店として親会社の日本出願を管理している方や、日本と中国の両方に出願している日本企業の知財担当の方にも役立つ内容です。

※2026年11月時点の特許庁の情報に基づいています。最新の要件は特許庁のPPHのページでご確認ください。

この記事でわかること

  • 特許審査ハイウェイ(PPH)の仕組み
  • 日中PPHの実施期間と、PCT-PPH・PPH MOTTAINAI
  • 日本でPPHを申請するための要件と必要書類
  • 請求項の「十分な対応」とは何か
  • 早期審査との違いと使い分け

特許審査ハイウェイ(PPH)とは

PPHは、特許庁同士の取決めに基づく制度です。先に審査をした特許庁(先行庁)で特許可能と判断された請求項があるとき、その請求項と対応する出願について、後から審査する特許庁(後続庁)に簡易な手続で早期審査を申請できます。

特許庁は、PPHの目的として、出願人が海外で早く特許を取得できるようにすることと、各庁が他庁の調査・審査結果を活用して審査の負担を減らし質を高めることを挙げています。日本はPPHを積極的に進めてきた国の一つで、特許庁のPPHのページには、米国・欧州・中国・韓国をはじめ、アジア、欧州・中東、米州、アフリカ、オセアニアの多数の庁が実施庁として掲載されています。

PCT-PPHとPPH MOTTAINAI

PPHには、各国の国内出願の審査結果を使う通常のPPHのほか、次のような形があります。

  • PCT-PPH:PCT国際出願の国際段階の成果物(国際調査機関の見解書、国際予備審査報告など)で特許性ありとされた請求項を使って申請するもの。
  • PPH MOTTAINAI:どの庁に最初に出願したかにかかわらず、先に審査結果を出した庁の結果を使って申請できるもの。

日中PPH:中国の審査結果で日本の審査を早める

日本国特許庁と中国国家知識産権局(CNIPA)の間のPPH試行プログラムは2011年11月1日に始まり、延長を重ねて、現在は2023年11月1日から5年間延長されています。特許庁の申請手続のガイドラインでは、終了日は2028年10月31日とされています(延長・早期終了の可能性があります)。PCT国際段階の成果物を使うPCT-PPHも対象です。

中国企業の日本出願は、中国出願を基礎にパリ優先権を主張して出願されるケースや、PCTを経由して日本に移行するケースが多く、中国側で先に特許査定が出ることも珍しくありません。その場合、中国の結果を使って日本でPPHを申請することが考えられます。逆に、日本で先に特許査定を受けた日本企業が、その結果を使って中国でPPHを申請することもできます(中国側の要件は中国側のガイドラインで確認が必要です)。

日本でPPHを申請するための要件

CNIPAの国内出願の審査結果を使って日本にPPHを申請する場合、特許庁のガイドラインに定める主な要件は次のとおりです。他の庁の結果を使う場合も、基本的な考え方は同じです。

日本でのPPH申請の主な要件

  • 出願同士の関係:日本の出願と中国の対応出願の最先の日付(優先日または出願日)が同一であること(パリ優先権、共通の基礎出願、同じPCT出願からの移行など)。
  • 特許可能な請求項:中国の対応出願に、特許可能と判断された請求項が1つ以上あること。
  • 十分な対応:日本の出願のすべての請求項が、中国で特許可能と判断された請求項と十分に対応していること。
  • 審査の状況:日本で審査請求がされており、PPH申請の時点で審査に着手されていないこと。

特に注意したいのは最後の要件です。日本で最初の審査結果(拒絶理由通知など)が出た後では、原則としてPPHは使えません。中国での特許査定が見えてきた段階で、日本の審査請求とPPH申請のタイミングを検討しておくことが大切です。

請求項の「十分な対応」とは

PPHの要件の中で、実務上いちばん検討が必要なのが「十分な対応」です。特許庁のガイドラインでは、おおむね次のように整理されています。

  • 翻訳や請求項の記載形式の違いによる差にとどまる場合は、十分に対応しているとみなされる。
  • 日本の請求項が、明細書に記載された特徴を追加して中国の特許可能な請求項より範囲を狭めたものである場合も、十分に対応しているとみなされる。
  • 中国の特許可能な請求項と異なるカテゴリー(例:中国では「装置」のみ認められたのに日本で「方法」を請求する)の請求項は、十分に対応しているとはいえない。
  • 中国で特許可能とされた請求項をすべて日本に含める必要はなく、一部を削除することは可能。

たとえば、中国で請求項1〜5が特許可能とされ、日本の出願に中国にはない広い請求項が含まれている場合、そのままではPPHを申請できません。PPH申請の前(または同時)に手続補正書で日本の請求項を中国の特許可能な請求項に合わせる必要があります。中国の請求項と日本の請求項を並べた「対応表」を作り、1項ずつ確認するのが基本です。

なお、中国で認められた範囲に合わせるということは、日本でもその範囲で権利化を目指すということです。日本独自に広い範囲を狙いたい場合は、あえてPPHを使わず通常の審査を受けるという判断もあり得ます。

PPH申請に必要な書類

日本でのPPH申請は、「早期審査に関する事情説明書」を提出して行います。CNIPAの結果を使う場合、主に次の書類が必要です。

書類 ポイント
中国のすべての通知(審査意見通知書等)の写しと翻訳文 翻訳文は日本語または英語。機械翻訳も可。CNIPAのドシエアクセスシステムで取得できる場合は写しの提出を省略できる(特許庁から求められることはある)。
特許可能と判断された請求項の写しと翻訳文 同上。
中国の審査官が引用した文献 特許文献は通常省略可。非特許文献は提出が必要。
請求項の対応表 日本のすべての請求項が中国のどの請求項に対応するかを示す。

すでに日本の特許庁に提出済みの書類は、その旨を示して省略できます。特許庁への手続そのものに手数料はかかりません(早期審査に関する特許庁への手続は無料とされています)。ただし、通常の審査請求料は必要で、請求項の補正や対応表の作成には専門家の作業が必要です。

早期審査との違いと使い分け

日本には、PPHとは別に国内の「早期審査」制度があります。対象となるのは、実施関連出願、外国関連出願(外国にも出願している出願)、中小企業・個人・大学・公的研究機関等の出願、グリーン関連出願などです。

項目 PPH 早期審査
前提 先行庁で特許可能な請求項がある 実施・外国出願・中小企業等の事情がある
請求項 先行庁の特許可能な請求項に十分対応させる 制限なし
先行技術の説明 先行庁の引用文献等を提出 先行技術文献の開示と対比説明が必要
特許庁手数料 なし なし

特許庁は、早期審査を申請した出願の審査順番待ち期間を平均3か月以下(2017年実績)としています。PPHも早期審査の枠組みで扱われます。

使い分けの目安としては、先行庁ですでに特許可能な請求項があり、その範囲で十分ならPPH、まだ他国の結果が出ていない、または日本で独自の範囲を狙いたいなら早期審査(外国関連出願など)を検討します。外国にも出願している出願は「外国関連出願」として早期審査の対象になり得るため、中国企業の日本出願では両方の選択肢を比べることができます。

PPHで失敗しやすいポイント

  • 日本で審査が始まってから申請しようとして間に合わない。
  • 日本の請求項に、中国で認められていない請求項が1つでも残っている。
  • カテゴリーの違う請求項(方法・用途など)を残している。
  • PPHを使えば必ず特許になると誤解する(日本の審査官は日本の基準で審査します)。

PPHは「審査を早めてもらう」制度であり、日本の審査官が中国の判断に拘束されるわけではありません。日本の先行技術調査によって拒絶理由通知が出ることもあります。ただ、すでに他庁で審査を経た請求項であるため、対応の見通しは立てやすくなります。

よくある質問

  • Q. PPHの申請に特許庁の手数料はかかりますか?
    A. 特許庁への申請手続自体は無料です。通常の審査請求料と、請求項の補正・書類作成の専門家費用は別に必要です。
  • Q. 中国の審査意見通知書は中国語のままで提出できますか?
    A. 翻訳文(日本語または英語)が必要です。機械翻訳も認められています。CNIPAのドシエアクセスで取得できる書類は写しの提出を省略できます。
  • Q. 日本で拒絶理由通知が出た後でもPPHは使えますか?
    A. 原則として、PPH申請時に日本で審査に着手されていないことが要件のため、使えません。
  • Q. PCT出願の見解書でもPPHを申請できますか?
    A. はい。PCT-PPHとして、国際調査機関の見解書などで特許性ありとされた請求項を使って申請できます。国際調査報告だけでは申請できません。
  • Q. PPHを使えば特許は確実ですか?
    A. いいえ。審査が早くなるだけで、日本の審査官は独自に判断します。

まとめ

  • PPHは、先行庁で特許可能とされた請求項を使って、日本の審査を早めてもらう制度です。
  • 日中PPHは2011年11月1日開始で、現在の期間は2028年10月31日までです(PCT-PPHも対象)。
  • 日本の全請求項を先行庁の特許可能な請求項に十分対応させ、審査着手前に申請する必要があります。
  • 必要書類は事情説明書、先行庁の通知・請求項の写しと翻訳文(日本語または英語)、引用文献、対応表です。
  • PPHと早期審査は特許庁手数料なし。範囲と状況に応じて使い分けます。

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  • この記事を書いた人

叶野徹

弁理士 叶野徹 京都を拠点とする「BrandAgent特許事務所」代表。 これまで累計4,000件以上の商標案件に携わってきた商標・特許の専門家。 プロスポーツチーム『滋賀レイラックFC』様の公式マスコット(うーまくん)の商標登録を担当するなど、複雑なキャラクターIPやAmazonブランド申請のためのロゴの権利保護において高い実績を持つ。 最新のAI技術と豊富な実務経験を掛け合わせ、京都・滋賀をはじめ全国の経営者様のブランドを最短ルートで守る盾となります。

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