
こうした疑問にお答えします。
実用新案は審査なしで早く登録される便利な制度ですが、いざ模倣品を見つけて「権利を使おう」とした段階で、特許とは違うルールがあることに気づく方が少なくありません。
そのカギになるのが実用新案技術評価書です。実用新案権を行使するには、まずこの評価書を取得して相手に示す必要があり、手順を誤ると、かえって自分が損害賠償を請求されるリスクもあります。
この記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士が、技術評価書の役割と費用、権利行使の際の注意点、そして実用新案から特許への切り替え(実用新案登録に基づく特許出願)や、特許出願から実用新案への出願変更について解説します。
※特許庁費用は記事作成時点(2026年11月)の特許庁の料金に基づいています。
この記事でわかること
- 実用新案技術評価書とは何か、誰がいつ請求できるか
- 技術評価書の費用
- 権利行使の前に必要な手順(29条の2)
- 登録が無効になった場合の賠償責任(29条の3)
- 実用新案から特許へ、特許から実用新案への切り替え
実用新案技術評価書とは
実用新案は、新規性や進歩性などの実体審査を行わずに登録されます。そのため、登録された実用新案が本当に有効な権利なのかどうかは、登録されただけではわかりません。
そこで設けられているのが実用新案技術評価の制度です。請求があると、特許庁の審査官が先行技術文献を調べ、登録された考案に新規性や進歩性などがあるかどうかを評価し、その結果を実用新案技術評価書として示します。
いわば、実用新案権の有効性について、特許庁の審査官が客観的な見解を示した「診断書」のようなものです。ただし、評価書は権利を有効・無効と確定させる判断ではなく、あくまで審査官による評価です。
誰が、いつ請求できる?
技術評価書は、実用新案権者だけでなく、誰でも請求できます。請求できる時期にも制限はなく、出願後いつでも請求できます。
たとえば、競合他社から実用新案権に基づく警告を受けた会社が、その権利が本当に有効かを確かめるために技術評価書を請求することもあります。第三者が請求した場合、その旨は権利者にも通知されます。
技術評価書の費用
技術評価請求料(特許庁費用)は、42,000円+請求項数×1,000円です。
| 請求項数 | 技術評価請求料(円) |
|---|---|
| 1 | 43,000 |
| 3 | 45,000 |
| 5 | 47,000 |
| 10 | 52,000 |
※弁理士の手数料は含みません。国際出願(PCT)を基礎とする実用新案では、国際調査報告を作成した機関に応じて、より低い料金が適用されます。
実用新案の出願時の特許庁費用が請求項1つで20,600円であることを考えると、技術評価請求料は決して安くありません。権利行使を考えるときには、この費用も見込んでおく必要があります。
評価書は権利行使以外にも役立つ
技術評価書は、警告や訴訟のためだけのものではありません。たとえば、実用新案権をライセンスしたり譲渡したりする交渉の場面では、相手方から「その権利は本当に有効なのか」と問われることがよくあります。肯定的な評価書があれば、権利の価値を客観的に説明する材料になります。
また、取引先や販売店に対して、自社製品が実用新案で守られていることを説明する際にも、評価書があると説得力が増します。一方で、否定的な評価が出ると権利の価値はかえって下がってしまうため、請求するかどうかは目的を明確にしたうえで判断しましょう。
権利行使の前に必要な手順(実用新案法29条の2)
実用新案権者が、侵害者に対して差止めや損害賠償などの権利行使をするためには、技術評価書を提示して警告した後でなければなりません(実用新案法29条の2)。
つまり、模倣品を見つけたら、次のような順序で進めることになります。
- 1. 技術評価書を請求する(まだ取得していない場合)
- 2. 評価書の内容を確認する:新規性・進歩性などが否定されていないか
- 3. 評価書を提示して警告する:相手方に評価書の写しを添えて警告書を送る
- 4. 交渉・訴訟:相手が応じない場合に、差止めや損害賠償を求める
特許であれば、審査を経た権利としてそのまま警告や訴訟に進めますが、実用新案では「まず評価書」というワンステップが必要です。評価書の作成には一定の時間がかかるため、権利行使を急ぐ場面ほど、早めの準備が重要になります。
評価が否定的だった場合
評価書で「新規性がない」「進歩性がない」といった否定的な評価が出た場合、その評価書を示して警告しても、相手は応じないでしょう。そのまま権利行使を強行すると、後述する賠償責任のリスクが高まります。否定的な評価が出たときは、権利行使を見送るか、弁理士と対応を慎重に検討してください。
登録が無効になった場合の賠償責任(実用新案法29条の3)
実用新案権者が権利を行使したり警告したりした後で、その実用新案登録が無効になった場合、権利者は、その権利行使や警告によって相手に与えた損害を賠償する責任を負います(実用新案法29条の3)。
たとえば、警告を受けた相手が製品の販売を中止し、その後に実用新案登録が無効になったとすれば、販売中止による損害を賠償しなければならない可能性があります。
ただし、権利者が相当の注意をもって権利行使や警告をしたときは、この責任を負いません。たとえば、肯定的な技術評価(新規性・進歩性などが否定されなかった評価)に基づいて権利行使した場合は、相当の注意を払ったものとして扱われます。
このルールは、審査を経ていない権利が乱用されるのを防ぐためのものです。実用新案権を使うときは、「評価書を取ったから大丈夫」と考えるのではなく、評価の内容や、評価書に挙げられていない先行技術がないかまで確認したうえで判断することが大切です。
技術評価書を請求するタイミングの注意点
技術評価書は便利な制度ですが、請求するタイミングには注意が必要です。権利者自身が技術評価を請求すると、その後は実用新案登録に基づく特許出願ができなくなるからです。
将来、特許への切り替えを考えている場合は、技術評価書を請求する前に、本当に今請求すべきかを検討してください。逆に、権利行使の予定がなく、特許への切り替えも考えていないのであれば、技術評価書を取る必要はありません。
実用新案から特許への切り替え(特許法46条の2)
「早く権利を取るためにまず実用新案で出願したが、製品が売れてきたので、より強い特許にしたい」というケースもあります。こうした場合に使えるのが、実用新案登録に基づく特許出願(特許法46条の2)です。
実用新案登録に基づく特許出願のポイント
- 実用新案の出願日から3年以内に行う必要がある
- 技術評価が請求されていないことなどの条件がある(権利者自身の請求のほか、第三者の請求後に一定期間が経過した場合なども不可)
- 特許出願をするときは、実用新案権を放棄する
- 特許出願は、元の実用新案の出願日に出願したものとみなされる
- 特許として登録されるには、通常の特許出願と同じく出願審査請求と審査が必要
実用新案で早期に権利を確保しつつ、事業の状況を見て特許に切り替えるという二段構えの戦略がとれる点がメリットです。一方で、切り替えると実用新案権は放棄することになり、特許として登録されるまでの間は審査を待つことになります。切り替えの判断は、期限(3年)を意識しつつ、早めに行うことをおすすめします。
特許出願から実用新案への出願変更
反対に、特許出願をしたものの、審査で進歩性が認められにくい場合などに、実用新案登録出願に変更するという選択肢もあります。
特許出願から実用新案登録出願への変更は、特許出願の日から9年6か月以内であれば可能です。ただし、最初の拒絶査定の謄本送達から3か月を経過した後は変更できません。
変更後の実用新案登録出願は、元の特許出願の時に出願したものとみなされます。ただし、実用新案の権利期間は出願日から10年ですので、元の特許出願から長い時間が経っていると、残りの権利期間は短くなります。また、変更できるのは、物品の形状・構造・組合せに関する内容に限られます。
実用新案権を上手に使うためのポイント
実務上のポイント
- 出願前の先行技術調査:否定的な評価や無効のリスクを下げ、権利の価値を高めます。
- 評価書の請求は戦略的に:特許への切り替えの可能性があるうちは慎重に判断します。
- 警告は必ず評価書を添えて:評価書なしの権利行使は認められません。
- 否定的な評価なら立ち止まる:無効時の賠償責任を負うリスクがあります。
- 3年の期限を管理する:特許への切り替えを検討するなら、出願日から3年以内に判断します。
よくある質問
- Q. 技術評価書がないと、模倣品の業者に連絡もできないのですか?
A. 差止めや損害賠償などの権利行使には、評価書を提示した警告が必要です。評価書のない段階での強い警告は、権利行使の要件を満たさないうえ、トラブルの原因にもなるため避けたほうが安全です。 - Q. 技術評価書の費用はいくらですか?
A. 特許庁費用は42,000円+請求項数×1,000円です。請求項1つなら43,000円です(弁理士の手数料は別途)。 - Q. 他社の実用新案権で警告を受けました。どうすればよいですか?
A. まず添付された技術評価書の内容を確認してください。誰でも技術評価を請求できるため、評価書が添付されていない場合や内容に疑問がある場合は、弁理士にご相談ください。 - Q. 実用新案を特許に切り替えられるのはいつまでですか?
A. 実用新案の出願日から3年以内で、技術評価が請求されていないことなどの条件を満たす場合です。切り替える際は実用新案権を放棄します。
まとめ
- 技術評価書は、審査官が実用新案の有効性を評価したもの。誰でも、いつでも請求できる
- 費用は42,000円+請求項数×1,000円
- 権利行使には、評価書を提示した警告が前提(29条の2)
- 登録が無効になると、相当の注意を払っていない限り賠償責任を負う(29条の3)
- 出願日から3年以内なら、条件付きで特許へ切り替え可能(46条の2)。権利者が評価を請求すると不可
- 特許出願は9年6か月以内(拒絶査定から3か月以内)なら実用新案へ変更できる
実用新案権の行使や特許への切り替えでお悩みの方は、累計4,000件超の出願実績を持ち、すべての案件を弁理士本人が担当する特許事務所BrandAgentまでお気軽にご相談ください。
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