
こうした疑問にお答えします。
製品を海外でも販売するなら、意匠も海外で押さえておきたいところです。そのときに候補になるのが、ハーグ協定に基づく意匠の国際出願と、国ごとにパリ条約の優先権を使って出す直接出願の2つのルートです。
本記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士・叶野徹が、ハーグ制度の仕組み、直接出願との違い、どちらを選ぶべきかの考え方を解説します。あわせて、海外の企業がハーグ制度で日本を指定してきた場合に日本でどう扱われるかもご紹介します。当事務所は海外クライアントからの日本出願も多く扱っており、両方向の実務を踏まえてお話しします。
※2026年11月時点の情報です。
この記事で分かること
- ハーグ協定による意匠の国際出願の仕組み
- 各国への直接出願(パリルート)との違い
- ハーグ出願のメリット・デメリットと向いているケース
- 優先権(6か月)の使い方
- 日本が指定された国際登録の審査と拒絶対応
ハーグ協定とは:1つの出願で複数国に意匠を出せる制度
ハーグ協定(ジュネーブ改正協定)は、世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局に1つの国際出願をするだけで、保護を受けたい複数の国・地域を指定して意匠の保護を求められる制度です。日本は2015年5月13日に加盟しました。
ハーグ国際出願の基本
- 出願先:WIPOに直接(電子出願システムeHague)、または日本の特許庁を経由して出願できます。
- 言語:英語・フランス語・スペイン語のいずれか
- 意匠の数:同じロカルノ分類に属する意匠であれば、1件の国際出願に最大100意匠まで含められます。
- 手数料:スイスフランでWIPOに支払います(基本手数料・公表手数料・指定国ごとの手数料など)。
- 公表:原則として国際登録日から12か月後に国際公表されます(早期公表や公表の延期の請求も可能)。
国際登録されたからといって、自動的に全指定国で権利になるわけではありません。各指定国は自国の法律に従って審査し、一定期間内に拒絶の通報をすることができます。拒絶されなかった国では、その国で登録されたのと同じ効果が生じます。
直接出願(パリルート)との違い
直接出願は、国ごとに現地の代理人を通じて、その国の言語・様式で出願する方法です。日本の出願を基礎にパリ条約の優先権を主張する場合は、日本の出願日から6か月以内に各国へ出願します。
| 項目 | ハーグ国際出願 | 各国への直接出願 |
|---|---|---|
| 出願手続 | WIPOに1件、複数国を指定 | 国ごとに別々に出願 |
| 言語 | 英・仏・西のいずれか1つ | 各国の言語 |
| 出願時の現地代理人 | 原則不要 | 多くの国で必要 |
| 拒絶されたとき | その国の代理人で対応 | その国の代理人で対応 |
| 登録後の管理 | 更新・名義変更をWIPOで一括 | 国ごとに手続 |
| 対象国 | 加盟国・地域のみ | どの国でも可 |
ハーグ出願のメリット
- 手続の一元化:1つの言語、1つの願書、1回の支払いで複数国に出願できます。
- 出願時の費用を抑えやすい:指定国が多いほど、各国の代理人に個別に依頼する場合と比べて出願時のコストを抑えられる傾向があります。
- 登録後の管理が楽:更新(5年ごと)や名義変更をWIPOで一括して行えます。
- 拒絶がなければ現地代理人不要のことも:指定国から拒絶の通報がなければ、その国の代理人を使わずに権利化できる場合があります。
ハーグ出願のデメリット・注意点
ハーグ出願の落とし穴
- 審査国では拒絶が来やすい:日本・米国・中国・韓国などは実体審査を行う国です。拒絶されれば結局その国の代理人に対応を依頼することになり、想定外の費用がかかります。
- 図面の要件が国ごとに違う:1つの図面セットで全指定国の要件を満たす必要があります。ある国では問題ない図面が、別の国では不明確として拒絶されることがあります。
- 加盟していない国は指定できない:主要な販売国が未加盟なら、その国は直接出願が必要です。
- 国ごとの制度差:部分意匠や関連意匠の扱い、1出願に含められる意匠の考え方などは国によって異なります。
なお、中国は2022年5月5日からハーグ協定の締約国になっており、日本企業が中国で意匠を取る場合もハーグルートが選択肢になりました。
どちらを選ぶべきか:判断のポイント
弁理士として実務的にお伝えすると、次のように考えるのが分かりやすいと思います。
- ハーグが向いているケース:指定したい国が多い(例えば欧州+複数国)、図面がシンプルで各国の要件を満たしやすい、登録後の管理を一元化したい。
- 直接出願が向いているケース:出願国が1〜2か国だけ、審査が厳しい国で確実に権利化したい、各国の実務に合わせて図面や物品名を最適化したい、対象国が未加盟。
- 併用も可能:欧州などはハーグ、重要な審査国は直接出願、という組み合わせもよくあります。
優先権の使い方:日本出願から6か月以内
意匠のパリ条約の優先期間は6か月です。日本で先に意匠登録出願をしておけば、その日から6か月以内のハーグ出願や直接出願で優先権を主張でき、日本の出願日を基準に新規性などを判断してもらえます。
特許(12か月)と比べて短いため、「日本で出してから海外を考える」と間に合わないことがあります。海外展開の可能性がある製品は、日本出願の段階から海外出願のスケジュールも決めておきましょう。
海外からハーグで日本が指定された場合の扱い
逆に、海外の企業がハーグ出願で日本を指定した場合、その国際登録は、国際登録日に日本の特許庁に意匠登録出願をしたものとして扱われます。
- 実体審査あり:日本の意匠審査官が、通常の日本出願と同じく新規性・創作非容易性などを審査します。審査請求は不要です。
- 拒絶の通報期間は12か月:日本は国際公表から12か月以内に拒絶の通報を行います。
- 応答は日本の弁理士を通じて:日本に住所・居所がない出願人は、拒絶の通報への応答(意見書・補正書)を日本の弁理士を通じて行う必要があります。WIPOに届け出た代理人では日本の手続はできません。
- 優先権証明書:優先権を主張する場合、国際出願時に提出していなければ、国際公表日から3か月以内に日本の特許庁へ提出が必要です。
日本の審査では、物品の特定(意匠に係る物品)や図面の一貫性がよく問題になります。海外の図面は日本の実務に比べて図の数が少なかったり、各図の間で形状が一致していなかったりすることがあり、拒絶理由の原因になりがちです。当事務所では、海外クライアントのハーグ指定案件の拒絶対応も扱っています。
日本企業がハーグ出願をするときの流れ
日本の企業がハーグ制度で海外に意匠を出す場合、一般的には次のような流れになります。
- 1. 日本で意匠登録出願をする:まず日本で出願し、優先権の基礎を確保します(日本で権利が不要な場合は、ハーグ出願から始めることもできます)。
- 2. 指定国を決める:販売予定国・製造国・模倣品が出やすい国を中心に選びます。加盟していない国は直接出願を検討します。
- 3. 図面を各国向けに見直す:日本の図面をそのまま使えることも多いですが、審査国の要件も意識して確認します。
- 4. 6か月以内に国際出願:eHagueでWIPOに直接、または日本の特許庁経由で出願し、優先権を主張します。
- 5. 公表と各国の審査:国際公表後、各指定国の審査結果を待ちます。拒絶が来た国は現地代理人と対応します。
公表のタイミングと「結論が出るまでの期間」
日本を含む各国の拒絶通報期間は、出願日ではなく国際公表から数えます。そのため、公表のタイミングによって、権利が確定するまでの期間が大きく変わります。
- 通常の公表:国際登録日から約12か月後に公表され、その後に各国の拒絶通報期間(日本は12か月)が続きます。
- 早期公表:早く権利を確定させたい場合は、即時の公表を請求できます。
- 公表の延期:発売まで秘密にしたい場合は、最長30か月まで公表を延期できます(指定国によってはこれより短い期間しか認められません)。
日本への直接出願であれば、最初の審査結果は出願からおおむね6か月〜1年程度で届くことが多く、通常公表のハーグルートより早く結論が出ることもあります。発売時期や模倣品対策の緊急度に合わせてルートを選ぶとよいでしょう。
費用の考え方
日本の特許庁に直接意匠登録出願をする場合の出願料は1意匠16,000円、登録料は第1〜3年が毎年8,500円、第4〜25年が毎年16,900円です。
ハーグ出願の手数料はWIPOにスイスフランで支払い、指定国・意匠数・公表方法によって変わります。また為替によっても円換算額が変動します。具体的な金額は、WIPOの手数料計算ツール(Fee Calculator)で確認するのが確実です。日本を指定する場合の個別指定手数料もこのツールで確認できます。
ハーグでも直接出願でも、拒絶されたときの応答費用を見込んでおくことが大切です。弁理士の手数料は国数や図面の状況によって異なりますので、個別にお見積りします。
よくある質問
- Q. ハーグ出願をすれば全世界で意匠が守られますか?
A. いいえ。保護されるのは指定した加盟国・地域だけで、各国の審査で拒絶されることもあります。 - Q. ハーグ出願は日本語でできますか?
A. できません。英語・フランス語・スペイン語のいずれかで出願します。日本の特許庁を経由して出願することは可能です。 - Q. 日本の意匠出願を基礎に優先権を主張できますか?
A. はい。日本の出願日から6か月以内であれば、ハーグ出願でも優先権を主張できます。 - Q. 海外の取引先がハーグで日本を指定したら拒絶が来ました。どうすればいいですか?
A. 日本に住所のない出願人は、日本の弁理士を通じて応答する必要があります。応答期間は限られていますので、早めにご相談ください。
まとめ
- ハーグ協定なら、WIPOへの1件の国際出願で複数の国・地域を指定して意匠の保護を求められます。
- 指定国が多い場合や管理を一元化したい場合はハーグ、少数国で確実に権利化したい場合は直接出願が向いています。
- 審査国では拒絶されることがあり、その場合は現地代理人による対応が必要です。
- 意匠の優先期間は6か月。海外展開の予定は日本出願の時点で決めておきましょう。
- 日本が指定された場合、拒絶の通報期間は12か月で、応答は日本の弁理士を通じて行います。
ハーグと直接出願のどちらが自社に合うか迷ったら、出願予定国と製品の図面をお知らせください。特許事務所BrandAgentでは、弁理士本人が全ての案件を担当し、最適なルートをご提案します。
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