
こうした疑問にお答えします。
新しい製品を考えたとき、「特許を取りたい」と考える方は多いと思います。一方で、相談を受けていると「実用新案のほうが安くて早いと聞いた」「実用新案と特許はどう違うのか」というご質問も非常によくいただきます。
実用新案と特許は、どちらも技術的なアイデアを守る制度ですが、守れる対象、審査の仕組み、権利の期間、費用、そして権利を使うときの注意点が大きく異なります。違いを知らずに選んでしまうと、「安く取れたけれど、いざというときに使いにくかった」「特許にしておけば良かった」ということにもなりかねません。
この記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士が、実用新案と特許の違いを表で比較しながら、どちらを選ぶべきかの考え方を解説します。
※特許庁費用は記事作成時点(2026年11月)の特許庁の料金に基づいています。
この記事でわかること
- 実用新案と特許で守れるものの違い
- 審査の有無と、権利になるまでの期間の違い
- 権利期間と特許庁費用の違い
- 実用新案で権利行使するときの注意点
- 実用新案と特許、どちらを選ぶべきかの判断基準
実用新案と特許の違い【比較表】
まずは全体像をつかむために、主な違いを表にまとめます。
| 項目 | 実用新案 | 特許 |
|---|---|---|
| 保護対象 | 物品の形状・構造・組合せに関する考案のみ | 物・方法・製造方法・化学物質・プログラム等の発明 |
| 実体審査 | なし(方式・基礎的要件のみ) | あり(出願審査請求が必要) |
| 登録までの期間 | 通常数か月程度 | 審査を経るため、一般に実用新案よりかなり長い |
| 権利期間 | 出願日から10年 | 出願日から20年 |
| 登録までの特許庁費用(請求項1の例) | 20,600円 | 169,800円 |
| 権利行使 | 技術評価書を提示して警告した後でなければできない | 審査を経た権利としてそのまま行使できる |
※特許の費用は出願料+出願審査請求料+第1~3年分の特許料の合計(日本語出願・請求項1の場合)。いずれも弁理士の手数料は含みません。
ひとことで言えば、実用新案は「早く・安く権利になるが、守れる範囲が限られ、使うときに注意が必要な権利」、特許は「時間と費用はかかるが、審査を経た強い権利」です。以下、項目ごとに詳しく見ていきます。
違い1:保護対象(守れるもの)
実用新案で保護されるのは、物品の形状、構造または組合せに関する考案に限られます。たとえば、次のようなものが典型例です。
- 持ち手の形を工夫して滑りにくくした調理器具
- 部品の組合せを変えて組立てを簡単にした収納ラック
- 内部構造を工夫して液漏れしにくくした容器
一方で、次のようなものは実用新案では保護できません。
- 方法(製造方法、測定方法、使用方法など)
- 化学物質・組成物(薬剤、合金、樹脂の配合など)
- プログラムそのもの(ソフトウェア、アプリの処理など)
- 一定の形状を持たないもの(液体、粉体そのものなど)
特許であれば、物の発明だけでなく、方法の発明や物を生産する方法の発明、化学物質、プログラムなども対象になります。製品の形や構造ではなく「作り方」や「材料の配合」に工夫がある場合は、実用新案は選べず、特許を検討することになります。
また、実用新案の出願には図面が必須です。形状や構造の工夫を図面で表せることが、実用新案に向いているかどうかの一つの目安になります。
違い2:審査の有無と登録までの期間
特許は、出願しただけでは審査されません。出願日から3年以内に出願審査請求を行い、審査官が新規性や進歩性などを審査したうえで、要件を満たすと判断されたものだけが登録されます。多くの出願では一度は拒絶理由通知が出され、意見書や補正書で対応することになります。
これに対して実用新案は、新規性や進歩性などの実体審査を行わない「無審査登録制度」です。特許庁がチェックするのは、書類の形式や、保護対象に当たるかといった基礎的な要件だけです。そのため、出願からおおむね数か月程度で登録されるのが通常です。
「登録された=有効な権利」とは限らない
実用新案は新規性や進歩性を審査せずに登録されるため、登録されていても、実は出願前から同じようなものが存在していた、ということがあり得ます。その場合、権利は無効になる可能性があります。登録されたからといって、その権利が確実に有効だという保証はありません。
違い3:権利期間
権利期間は、実用新案が出願日から10年、特許が出願日から20年です(特許は医薬品等について延長が認められる場合があります)。
製品のライフサイクルが短く、数年で次のモデルに切り替わるような商品であれば、10年でも十分なことがあります。一方、長く売り続ける主力製品や、ライセンスで収益化したい技術であれば、20年守れる特許のほうが向いています。
違い4:特許庁に支払う費用
費用面では、実用新案のほうが大幅に安く済みます。
実用新案の特許庁費用
実用新案は、出願時に出願料14,000円に加えて、第1~3年分の登録料をまとめて納付します。登録料は1年あたり「2,100円+請求項数×100円」です。
請求項が1つの場合、出願時に必要な特許庁費用は、14,000円+2,200円×3年=20,600円です。
特許の特許庁費用
特許は、出願料14,000円に加え、出願審査請求料(138,000円+請求項数×4,000円)と、登録時の第1~3年分の特許料(1年あたり4,300円+請求項数×300円)が必要です。請求項1つでも、登録までの特許庁費用の合計は169,800円になります。
特許は審査の過程で拒絶理由通知への対応が必要になることが多く、その分の弁理士費用もかかります。実用新案は実体審査がないため、こうした中間対応の費用が基本的に発生しない点も、総費用が安くなる理由です。
弁理士の手数料は、明細書の分量や技術内容によって案件ごとに異なります。具体的な金額は、無料でお見積りいたしますのでお気軽にご相談ください。
違い5:権利行使のしやすさ
実用新案と特許の違いで、最も注意していただきたいのがこの点です。
実用新案権者が、権利を侵害している相手に差止めや損害賠償を求めるためには、まず特許庁に実用新案技術評価書を請求し、その評価書を相手に提示して警告しなければなりません(実用新案法29条の2)。評価書の請求には、42,000円+請求項数×1,000円の特許庁費用がかかります。
さらに、権利を行使した後でその実用新案登録が無効になった場合、権利者は、相当の注意を払って行使したといえない限り、相手に与えた損害を賠償する責任を負います(実用新案法29条の3)。
つまり、実用新案は「登録は簡単でも、使うときには慎重さが求められる権利」です。審査を経た特許は、こうした事前の手続なしに権利行使できるため、競合他社への牽制力という点では特許のほうが強いといえます。
もっとも、実用新案にも「登録済みの権利がある」こと自体による一定の牽制効果はあります。製品に登録番号を表示しておくことで、模倣を考える相手に慎重な判断を促すことができます。
実用新案から特許へ、特許から実用新案へ切り替えはできる?
「とりあえず実用新案で出して、あとで特許にしたい」というご相談もよくあります。
実用新案登録後でも、出願日から3年以内であれば、その実用新案登録に基づいて特許出願をすることができます(特許法46条の2)。ただし、技術評価書が請求されていないことなどの条件があり、特許出願をする際には実用新案権を放棄する必要があります。
反対に、特許出願中の案件を実用新案登録出願に変更することもできます。特許出願の日から9年6か月以内で、かつ最初の拒絶査定の謄本送達から3か月を経過する前であることが条件です。
このように、両制度の間には一定の行き来が認められていますが、期限や条件があるため、最初の段階でどちらを選ぶかをよく検討しておくことが大切です。
実用新案と特許、どちらを選ぶべき?
ここまでの違いを踏まえて、選び方の目安をまとめます。
実用新案が向いているケース
- 工夫が製品の形状・構造・組合せにある
- 製品のライフサイクルが短く、早く権利化したい
- 費用をできるだけ抑えたい
- 比較的シンプルな改良で、特許の審査を通るか不安がある
- まずは「登録済み」の表示で模倣を牽制したい
特許が向いているケース
- 方法、材料、化学物質、ソフトウェアなどに工夫がある
- 長く販売する主力製品・中核技術である
- 競合他社の模倣を確実に止めたい、訴訟も視野に入れている
- ライセンスや資金調達で権利を活用したい
- 取引先や投資家に「審査を経た権利」として示したい
中小企業や個人の発明者の方からは、「費用が安いから実用新案で」というご希望をいただくことが多いのですが、技術の重要度によっては特許をおすすめすることもあります。逆に、特許を希望されていても、内容や事業計画から見て実用新案で十分な場合もあります。
大切なのは、「安いかどうか」だけでなく、「その権利を将来どう使いたいか」から逆算して選ぶことです。
よくある質問
- Q. 実用新案は特許より「格下」の権利ですか?
A. 制度の目的が違うだけで、格下というわけではありません。ただし、審査を経ていないため、権利行使の前に技術評価書を取る必要があるなど、使い方に注意が必要です。 - Q. 実用新案で方法やソフトウェアを守れますか?
A. 守れません。実用新案の対象は物品の形状・構造・組合せに限られます。方法やプログラムに工夫がある場合は特許を検討してください。 - Q. 実用新案はどのくらいで登録されますか?
A. 実体審査がないため、通常は出願から数か月程度で登録されます。ただし、書類に不備があると補正を求められ、その分時間がかかります。 - Q. 実用新案で出願して、後から特許に切り替えられますか?
A. 出願日から3年以内で、技術評価書が請求されていないことなどの条件を満たせば、実用新案登録に基づく特許出願ができます。この場合、実用新案権は放棄することになります。
まとめ
- 実用新案は物品の形状・構造・組合せのみ。方法・化学物質・プログラムは特許で守る
- 実用新案は実体審査なしで、通常数か月程度で登録される
- 権利期間は実用新案が出願から10年、特許が20年
- 特許庁費用は請求項1の場合、実用新案20,600円、特許169,800円(登録まで)
- 実用新案の権利行使には技術評価書の提示が必要で、無効になった場合の賠償リスクもある
- 「将来その権利をどう使うか」から逆算して選ぶことが大切
実用新案と特許のどちらで出願すべきか迷われたら、累計4,000件超の出願実績を持ち、すべての案件を弁理士本人が担当する特許事務所BrandAgentまでお気軽にご相談ください。
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