
相手の登録商標、何年も使っていないみたいだけど、このまま残り続けるの?
不使用取消審判って、どんなときに使えるの?
本当に取り消せるのか、どこが争点になるのか知りたい。
こうした疑問に、弁理士がわかりやすく解説します。
他人の登録商標が実際には使われていないのに残っていると、新しいブランド名を採用したい会社にとって大きな障害になります。そこで使える制度が「不使用取消審判」です。
不使用取消審判とは、登録商標が継続して3年以上、日本国内で使用されていない場合に、その登録の取消しを特許庁に求めることができる審判手続です。現在は、何人でも請求可能です。
そして、この審判の大きな特徴は、「使用していたことの立証責任は、商標権者側にある」という点です。
この記事では、
不使用取消審判の基本・趣旨
↓
取消しが認められるための要件
↓
立証責任と「社会通念上同一」の考え方
↓
駆け込み使用の防止ルール
↓
請求前に確認すべき実務ポイント
の順に解説します。
関連ページ
商標登録の費用
商標無料相談はこちら
- 請求できる人:何人でも可能(利害関係人に限定されない)
- 争点の中心:要証期間内に、日本国内で、権利者側が登録商標を使用していたか
- 立証責任:使用していたことの立証は原則として商標権者側が行う
- 取消しの効果:審判請求の登録日まで遡及して商標権が消滅したとみなされる
ただし、「誰が・いつ・どこで・何に・どの商標を使ったか」がすべて問われます。請求前の見立てが非常に重要です。

- 関西の特許事務所と大手法律事務所と大手企業知財部で合計10年ほどの知財実務を積んできました。
- 特許サポート件数1,000件以上、商標申請代行件数2,000件以上の弁理士です。
- 京都で特許事務所BrandAgentを開業しています。
- ブログ歴3年以上でブログを書くことが趣味です。
- 月間PV数最高11万超のブログを運営したこともあります。
- 初心者の方でもわかりやすいように記事を書くことが得意です。
不使用取消審判とは?制度の趣旨

不使用取消審判とは、登録商標が使用されていない場合に、その登録の取消しを特許庁に求める審判手続です(商標法§50)。
商標制度は、使用によって蓄積される信用を保護することを前提としています。そのため、長期間まったく使われていない商標をそのまま独占させ続けることは適切ではなく、不使用商標を整理して、他の事業者が商標を選択できる余地を確保するという公益的な趣旨がこの制度にはあります。
この制度は、平成8年の改正商標法によって大きく整備されました。改正の主なポイントは次の5点です。
平成8年改正の主なポイント
- 請求人適格の緩和:「利害関係人」限定から「何人でも」に拡大
- 駆け込み使用の防止:審判請求前3ヶ月から登録日までの駆け込み使用を原則排除
- 取消効果の遡及:取消確定時ではなく、審判請求の登録日まで遡及して権利消滅
- 連合商標特則の廃止:連合商標での使用による取消回避を廃止
- 使用と認める範囲の拡大:「社会通念上同一と認められる商標」の使用も登録商標の使用として扱う
この記事でわかること
- 不使用取消審判の趣旨と概要
- 取消しが認められるための4つの要件
- 立証責任が誰にあるのか
- 「社会通念上同一」の使用とは何か(認められる例・認められない例)
- 駆け込み使用の防止ルールと正当理由
- 請求前に確認すべき実務ポイント
無効審判との違い

不使用取消審判と混同されやすいのが「無効審判」です。両者の違いを整理します。
| 制度 | 争う内容 | 請求できる人 | 取消しの効果 |
|---|---|---|---|
| 不使用取消審判 | 登録後に3年以上使用していないこと | 何人でも | 審判請求の登録日に遡及して権利消滅 |
| 無効審判 | 登録時点で登録に問題があったこと | 利害関係人 | 商標権は初めから存在しなかったとみなす |
不使用取消審判では、取消しの効果が審判請求の登録日(予告登録日)まで遡及する点が特徴です。これにより、請求の登録日から取消審決確定日までの間、不使用登録商標に基づく損害賠償請求等の権利行使を回避することが可能になります。
不使用取消審判の4つの要件

不使用取消審判で「使用があった」と認められるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。特許庁の広報資料でも、①〜⑥の観点が示されています。
「使用」と認められるための要件
- ① 取消審判請求の登録前、過去3年間に
- ② 日本国内で
- ③ 商標権者・専用使用権者・通常使用権者が
- ④ 取消審判請求された商品・役務に
- ⑤ 登録商標(または社会通念上同一と認められる商標)を
- ⑥ どのように使用していたか
これらを商標権者が明らかにする必要があります。
各要件のポイントを詳しく解説します。
要件①:継続して3年以上使用していないこと
「継続して3年以上」とは、要証期間(審判請求の登録日前3年以内)に1回も適法な使用がないことを意味します。逆に、この期間内に適法な使用が1回でも立証されれば、その請求対象部分について取消しを免れる可能性があります。
なお、要証期間は審判請求日ではなく、審判請求の登録日(予告登録日)前3年以内で判断される点に注意が必要です。
要件②:日本国内での使用であること
外国での販売実績や使用では足りません。あくまで日本国内での使用が必要です。海外で積極的に使用していても、日本国内での使用証拠にはなりません。
要件③:使用主体の範囲(ライセンシーの使用も含まれる)
商標権者本人が使っていなくても、専用使用権者や通常使用権者が使っていれば取消しを免れる可能性があります。「権利者本人が使っていないから勝てる」と即断するのは危険です。実務では、グループ会社・販売代理店・ライセンシーの使用証拠が出てくることがあります。
要件④:指定商品・指定役務についての使用であること
類似商品についての使用や、類似商標の使用では足りません。原則として、請求対象となっている指定商品・指定役務についての登録商標の使用が必要です。ただし、「社会通念上同一」と認められる範囲の使用であれば登録商標の使用として扱われます(後述)。
👉 特許事務所BrandAgent 公式サイトはこちら
立証責任は誰にあるのか

不使用取消審判の最大の特徴がここです。
通常の訴訟では、請求する側が事実を立証するのが原則です。しかし、不使用取消審判では、使用しているかどうかを最もよく知っており、証拠も持っているのは商標権者側であることから、昭和50年の法改正により立証責任が商標権者側に全面的に転換されました(商§50②)。
つまり、被請求人(商標権者)が使用の事実を証明しなければ、取消しを免れることができません。
特許庁の広報資料でも、使用の事実を示す資料として以下が例示されています。
有効な使用証拠の例(特許庁広報資料より)
例1:登録商標を表示した商品を自社店舗で販売している場合
- 自社店舗に陳列された商品の写真
- その商品の販売の事実を裏付ける取引書類
例2:登録商標を表示した自社ウェブサイトで商品・役務を紹介している場合
- そのウェブサイトの印刷物または保存データ
ただし、請求人側も何もしなくてよいわけではありません。どの商品・役務について取消しを求めるのか(請求対象の切り方)、相手方の証拠への反論をどう組み立てるかは極めて重要です。
「社会通念上同一」の使用とは?

登録商標と完全に一字一句同じでなくても、「社会通念上同一」と認められる使用は、登録商標の使用として扱われます(商§38⑤)。
社会通念上同一と認められる例(使用あり)
審判便覧(53-01)では、以下の例が「登録商標の使用と認められる」ものとして示されています。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 書体のみの変更 | 明朝体 ↔ ゴシック体、活字体 ↔ 筆記体、正字 ↔ 略字(學藝 ↔ 学芸) |
| 文字種の相互変更(称呼・観念が同一) | 平仮名 ↔ 片仮名(ちゃんぴおん ↔ チャンピオン)、片仮名 ↔ ローマ字(アップル ↔ apple) |
| 称呼・観念が同一の場合の仮名 ↔ 漢字 | はつゆめ ↔ 初夢、かんぱく ↔ 関白 |
| 二段併記商標の一方の使用 | 「太陽/SUN」の登録に対し「太陽」または「SUN」のみの使用 |
| 縦書き ↔ 横書きの相互間の使用 | 縦書きと左横書きの相互間(ローマ字の右横書きを除く) |
| 外観において同視される図形 | 構図・モチーフが同一で、わずかに図形の細部が異なる場合 |
社会通念上同一と認められない例(使用なし)
一方、以下のような場合は「登録商標の使用と認められない」とされています。
社会通念上同一とならない主な例
- 観念が変わる仮名とローマ字の変更:「チョコ(チョコレートの略)」↔「ちょこ(猪口)」
- 複数の観念を持つ語とローマ字の変換:「ピース(平和・小片)」↔「peace(平和)」または「piece(小片)」のように、一方に特定しきれない場合
- 称呼が異なる漢字とローマ字:「虹」↔「rainbow」、「休日」↔「holiday」
- 観念を表す文字と図形の相互使用:「蛙」という文字とカエルの写実的な図形
- 形態が顕著に異なる図形:同じパンダを表す図形でも、形態が著しく異なる場合は社会通念上同一とはならない
これは請求人側にとっても重要な視点です。「登録商標と少し表記が違うから不使用だ」と思っても、社会通念上同一と評価されれば、相手方の使用立証が成立する可能性があります。
駆け込み使用の防止ルール

不使用取消審判では、請求されることを察知した商標権者が、慌てて使用を開始する「駆け込み使用」が問題になります。審判便覧(53-01)では、この問題に対して明確なルールが定められています。
駆け込み使用が排除される条件(請求人が証明)
以下の2点を請求人が証明した場合、その使用は取消回避のための使用として原則排除されます(商§50③)。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 駆け込み期間内の使用 | 審判請求前3ヶ月から審判請求の登録日までの間の使用であること |
| ② 請求を知った後の使用 | 商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれかが、審判請求がされることを知った後の使用であること |
証明方法の具体例としては、商標権の譲渡交渉等において内容証明郵便や第三者立会いのもとで「当該商標登録の不使用取消審判を請求する」旨を伝えた事実を審理の過程で立証することなどが挙げられます。
駆け込み使用でも「正当理由」があれば取消しを免れる
被請求人が証明した使用が駆け込み使用の要件を満たす場合でも、使用について正当な理由がある場合は例外として取消しを免れることができます。
正当な理由の例(審判便覧53-01より):
- 請求人による審判請求の意思を知る以前から、登録商標の使用について明確な使用計画があった場合
- 商品や営業の許認可等の制限のため、駆け込み期間に使用せざるを得なかった場合
実務上の注意点
駆け込み使用の防止ルールがあるため、交渉の進め方によっては相手に駆け込み使用の機会を与えてしまうおそれがあります。不使用取消審判の請求を検討する際は、警告・交渉・審判請求の順番を慎重に設計する必要があります。
一部取消請求もできる
不使用取消審判は、登録全体だけでなく、指定商品・指定役務の一部について請求することも可能です。
たとえば、複数の商品・役務が指定されている登録のうち、実際に使われていない部分だけを狙って取消しを求めることができます。これにより、自社の事業に影響する部分だけをピンポイントで整理する戦略が取れます。
不使用取消審判を検討しやすいケース

以下のような場面では、不使用取消審判が有力な選択肢になります。
不使用取消審判を検討しやすいケース
- 相手の古い登録が残っていて、新ブランドの出願や使用の障害になっている
- 商標権侵害の警告を受けたが、相手の商標が実際には長年使われていないように見える
- 譲渡交渉やライセンス交渉がまとまらず、別の解決策が必要
- 指定商品・役務が広すぎる登録の一部を整理したい
請求前に確認したい実務ポイント

不使用取消審判は「使っていなさそうだから請求する」だけでは不十分です。相手方がどんな使用証拠を出してきそうか、その証拠が要証期間・日本国内・使用主体・請求対象の商品役務と対応しているかまで見たうえで進める必要があります。
請求前に確認すべきポイント
- 本当に要証期間(登録日前3年以内)に、日本国内で使用がないか
- 商標権者本人以外(ライセンシー、関連会社等)の使用がないか
- 請求対象の商品・役務をどこまで絞るか(一部取消の活用)
- 相手が出してきそうな証拠(広告、納品書、ウェブサイト、取引書類など)にどう対応するか
- 「社会通念上同一」の使用として認められる余地はないか
- 取消しの後、自社で出願・使用する計画があるか
- 警告・交渉・審判請求の順番(駆け込み使用対策)をどう設計するか
よくある質問(FAQ)
Q. 不使用取消審判は誰でも請求できますか?
A. はい。現在は利害関係人に限られず、何人でも請求できます。ただし、被請求人を害することを目的とした請求は権利濫用として認められない場合があります。
Q. 相手が少しでも使っていれば負けますか?
A. 何でも足りるわけではありません。要証期間内・日本国内・適切な使用主体・請求対象の商品役務・登録商標または社会通念上同一の商標、という要件をすべて満たす必要があります。
Q. 海外で使っていれば足りますか?
A. 原則として足りません。日本国内での使用が必要です。
Q. 一部の商品だけ取り消したいのですが可能ですか?
A. 可能です。指定商品・指定役務の一部について取消請求できます。
Q. 相手が審判の後に慌てて使い始めた場合はどうなりますか?
A. 審判請求前3ヶ月から請求の登録日までの間の使用で、かつ請求がされることを知った後の使用であることを請求人が証明できれば、その使用は原則として取消回避のための使用として扱われません(駆け込み使用の防止ルール)。
Q. 取消しが確定すると、いつから商標権がなくなりますか?
A. 取消審決の確定日ではなく、審判請求の登録日(予告登録日)まで遡及して商標権が消滅したとみなされます(商§54②)。
まとめ

不使用取消審判について解説しました。
まとめ
- 不使用取消審判は、要証期間(登録日前3年間)に日本国内で使用がない登録商標を対象に、何人でも請求できる制度
- 使用していたことの立証責任は商標権者側にある
- 書体変更・仮名とローマ字の変換など、「社会通念上同一」の使用も登録商標の使用として扱われる
- 審判請求前3ヶ月からの使用で、請求を知った後の使用であることが証明されれば、駆け込み使用として排除できる(正当理由があれば例外)
- 取消しが確定すると、審判請求の登録日まで遡及して商標権が消滅したとみなされる
- 指定商品・役務の一部について取消請求することも可能
相手の登録商標が本当に取り消せそうか、請求前に見立てをしたい方はお気軽にご相談ください。警告対応・交渉・不使用取消審判・新規出願まで含めて、最適な進め方をご案内します。