
中国は世界最大のマーケットであると同時に、模倣品の発生件数も依然として多い市場です。日本企業が受けた模倣被害を製造地・経由地・販売地で分けると、そのいずれにおいても中国本土・香港関連が最多を占めています。一方で、中国の知財保護制度はここ10年あまりで急速に整備が進み、権利者が取り得る対抗手段も格段に増えました。
大切なのは、「模倣されてから慌てる」のではなく、「事前に権利を取得し、見つけたら段階的に対応する」という基本の流れを押さえておくことです。この記事では、中国で模倣品を発見したときの具体的な対応ルートと、その前提として欠かせない権利取得の考え方を、コストと効果の順に整理して解説します。
中国の模倣品対策は、(1)まず中国で商標権を取得して「武器」を持つこと、(2)被害を発見したら、コストの低い手段(リンク削除・警告)から段階的に対応すること、の2点が基本です。権利がなければ、どの手段も使えません。模倣品対策は、被害が出てからの「攻め」より、出願による「備え」が9割とお考えください。
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中国における模倣品対策の4つの救済ルート

中国で模倣品・侵害品に対応する手段は、大きく次の4つのルートに分けられます。それぞれにコスト・期間・得られる効果の違いがあります。
| ルート | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 私的救済 | 警告状の送付、直接交渉、ECサイトでの侵害リンク削除申請など | コストが低く、スピードが速い。最初に検討する手段。 |
| 行政ルート | 市場監督管理局・税関など行政機関による取締り | 訴訟より安く早い。ただし損害賠償は得られない。 |
| 司法ルート | 裁判所への民事訴訟 | 差止めに加え損害賠償を請求できる。時間と費用はかかる。 |
| 刑事ルート | 公安機関への告発 | 深刻・大規模な侵害に限られるが、強い牽制効果がある。 |
これらはどれか一つを選ぶというより、被害の規模や目的に応じて組み合わせたり、段階的に重ねていったりするのが実務の基本です。そして、どのルートであっても、共通の大前提があります。それが「中国における権利の取得」です。
大前提――まず中国で商標権を取得する

上記のどのルートを使う場合でも、行政機関や裁判所が動いてくれるのは「中国で認められた権利」に基づく主張に対してです。日本でいくら有名なブランドでも、中国で商標登録をしていなければ、行政摘発も訴訟も基本的にできません。
特に注意したいのが、中国が「先願主義」を採用している点です。これは「先に使っていた人」ではなく「先に出願した人」が原則として権利を得る制度です。日本で長年使ってきたブランドであっても、中国で第三者に先に出願・登録されてしまうと、その商標は他人のものになり、逆に自社が「侵害者」として扱われかねません。実際、他人に先取りされた商標を取り戻すには、不使用取消請求・無効宣告請求・異議申立、あるいは交渉による買い取りといった手段が必要になり、多大な時間とコストがかかります。
・行政摘発・訴訟・税関差止め・ECサイトのリンク削除、すべての対抗手段の「土台」になる
・第三者による冒認出願(先取り)を防ぎ、自社ブランドを守れる
・正規品の輸出入の際、模倣品と区別して通関を円滑に進められる
・侵害者に対し、登録証という客観的な根拠を示して交渉を有利に進められる
なお、中国の商標権の存続期間は登録日から10年で、10年ごとに何度でも更新できます。早めに出願し、しっかり維持していくことが、長期的な模倣品対策の基礎になります。
段階1:ECサイトでの侵害リンク削除申請(コスト最小)

近年、模倣品の多くはタオバオ・Tモール・アリババなどのECプラットフォーム上で販売されています。そこで最初に検討したいのが、プラットフォームへの侵害リンク削除申請です。
大手ECプラットフォームには権利者向けの申立窓口が整備されており、手続きは概ね次の流れで進みます。まず専用サイトで権利者または代理人のユーザー登録を行い、次に商標登録証の写しなどで権利を登録します。その上で侵害リンク・店舗情報を提供して侵害理由を説明すると、プラットフォーム側が初歩的に侵害が成立すると判断した場合、当該リンクは閉鎖されます。
この方法はコストがかなり低く、2週間程度という短期間で対応でき、スピードが速いのが最大の魅力です。一方で、削除されたリンクが別アカウントで再出品されることもあり、また被疑者側の異議が認められればリンクが閉鎖できない場合もあります。あくまで「初期対応」と位置づけ、繰り返す相手には別の手段を重ねるのが現実的です。
ここでも前提となるのが商標権です。権利登録の段階で商標登録証が必要になるため、中国で商標を取得していないと、そもそも削除申請のスタートラインに立てません。
段階2:警告状の送付・直接交渉

相手方が特定できている場合、警告状の送付や直接交渉も有効な手段です。相手が当方の主張を認めて自発的に侵害をやめれば、迅速かつ低コストで解決できます。警告状の送付は、後の訴訟で「侵害者が悪意で侵害していた」ことを示す証拠としても利用できます。
ただし中国特有の注意点があります。日本と異なり内容証明郵便の制度がないため、送付の事実を残すには現場での公証を行う必要があります。また、警告状を受け取った相手が、これを逆手にとって自分に都合のよい裁判所に「非侵害確認訴訟」を提起してくるリスクもあります。これを避けるには、警告状を送る前に訴訟の準備まで整えておくこと、そして回答期限を短めに設定することが実務上のポイントです。交渉は専門家を交えて慎重に進めるべき場面が多く、安易な自力対応はおすすめできません。
段階3:行政摘発――安く早く侵害を止める

私的救済で止まらない、あるいは侵害が一定の規模に達している場合は、行政ルートが選択肢になります。商標権侵害の取締りは、各地方の市場監督管理局が担当します(かつての工商行政管理局などが統合された機関です)。
行政摘発は、訴訟に比べて時間と費用がかからず、証拠の証明力も訴訟ほど厳格には求められないのがメリットです。行政機関が現場に赴いて侵害状況を独自に調査し、侵害品を差し押さえ、侵害の差止めや罰金などの行政決定を出してくれます。処理期間はおおむね3〜6か月程度です。
一方で、損害賠償は得られないこと、侵害者が現地で一定の影響力を持つ企業の場合は地方保護主義の影響を受ける可能性があることがデメリットです。後者への対策として、侵害者の所在地だけでなく侵害行為の発生地など、請求先を戦略的に選ぶことが有効です。日本企業(外国企業)が行政摘発を請求するには現地代理人を通じる必要があり、公証・認証を経た授権委任状が必須となる点も押さえておきましょう。
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段階4:民事訴訟・刑事告発
行政ルートで望ましい効果が得られない場合や、損害賠償をしっかり請求したい場合は、司法ルート(民事訴訟)に進みます。中国の知財訴訟制度は近年大きく強化されており、北京・上海・広州・海南には専門の知識産権法院が設けられ、2019年からは最高人民法院に知的財産権法廷も設置されました。
民事訴訟では侵害の差止めと損害賠償の両方を請求でき、相手に強いプレッシャーを与えられます。特に注目すべきは、悪意による侵害かつ情状が深刻な場合に、通常の賠償額の1〜5倍の懲罰的賠償を科せる制度が導入されている点です。一審は通常6か月程度、コストは高めですが、行政ルートと比べて判断レベルが高く、地方保護主義の影響も小さく、複雑な事件にも対応できます。
さらに、模倣が大規模で犯罪を構成するような深刻なケースでは、公安機関への刑事告発という手段もあります。刑事処罰は再犯防止への牽制効果が高く、公安の調査力は権利者自身の調査をはるかに上回ります。ただし対象となるのは情状の重い限られた事件のみで、損害賠償は別途民事で請求する必要があります。
費用対効果で考える対応の優先順位
以上を、コストと効果のバランスで並べると、対応の優先順位は次のように整理できます。いきなり訴訟に飛びつくのではなく、低コストの手段から段階的に積み上げていくのが、費用対効果の高い進め方です。
| 順番 | 対応策 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 前提 | 中国で商標権を取得(出願・登録) | すべての武器の土台 |
| ① | 被疑侵害品の情報をウォッチング | 早期発見 |
| ② | ECサイトの侵害リンク削除申請 | 最も低コスト・短期 |
| ③ | 警告状・厳正声明・交渉 | 低コスト |
| ④ | 行政摘発 | 中コスト・損害賠償なし |
| ⑤ | 訴訟・刑事告発 | 高コスト・損害賠償あり |
模倣品対策は「権利があって初めて成り立つ」点を忘れないでください。被害を発見してから慌てて出願しても、その時点では既に手遅れか、第三者に先取りされているケースが少なくありません。中国市場に関わるなら、事業展開と並行して、早めの商標出願を進めておくことが何よりのリスク対策です。
まとめ:中国の模倣品対策は「備え」が9割

中国の模倣品対策は、(1)中国で商標権を取得して土台を固め、(2)被害を発見したらコストの低い手段から段階的に対応する、という流れが基本です。リンク削除・警告・行政摘発・訴訟・刑事告発と手段は揃っていますが、そのどれもが「中国で認められた権利」を前提としています。
裏を返せば、先願主義の中国では、出願が遅れるほどリスクが高まるということです。すでに中国で事業をされている方、これから展開を考えている方は、模倣されてから動くのではなく、今のうちに権利の備えを整えておくことを強くおすすめします。
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