
中国の工場に製造を委託するOEM(相手先ブランド製造)は、コストを抑えてものづくりができる魅力的な手段です。しかし、商標の観点から見ると、OEMは特有のリスクを抱えた取引形態でもあります。
「自社で売るわけだから、中国の商標は関係ない」と考えていると、思わぬ落とし穴にはまります。この記事では、中国でOEM生産を行う際になぜ商標登録が重要なのか、委託先による先取りや輸出品の差止めといった具体的なリスク、そして近年の重要な判例の動きまでを解説します。
中国OEMには、(1)委託先の工場経営者などに商標を先取りされる、(2)第三者の中国商標と衝突し、輸出品が税関で差し止められる、という2大リスクがあります。しかも近年、「輸出専用のOEMだから商標権侵害にならない」という従来の考え方は通用しなくなりつつあります。OEMを始める前に、中国で自社の商標を取得しておくことが、最も確実な防衛策です。
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結論:OEMでも「中国の商標登録」は必要

「製造を委託して、できた製品は日本や第三国で売る。中国国内では売らない。だから中国の商標はいらない」――OEM事業者によくある考え方ですが、これは危険です。中国でOEM生産を行う場合、商標が関わる場面は主に2つあります。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 委託先による先取り | 取引を通じて自社ブランドを知った工場経営者などが、勝手に商標を登録してしまう。 |
| 第三者商標との衝突・差止め | 付けようとしたブランドが中国で他人に登録されており、製造・輸出が侵害とされる。 |
どちらも、製品を中国国内で売るかどうかに関わらず起こり得ます。順に見ていきましょう。
リスク1:委託先の工場に商標を先取りされる

OEM取引で最も多いトラブルの一つが、委託先の工場経営者やその関係者による商標の先取り(冒認出願)です。
OEMでは、製造を委託する過程で、ブランド名・ロゴ・製品名といった情報を必ず相手に伝えることになります。中国は「先願主義」(先に出願した者が権利を得る制度)を採用しているため、その情報を握った委託先が、自社より先に中国で商標登録をしてしまえば、中国ではその商標は委託先のものになります。
こうなると、立場は一気に逆転します。「この商標はうちのものだ。うちから買わなければ中国で商標権侵害になる」と取引を盾に取られたり、別の工場に乗り換えようとしても同じブランドで製造を続けられなくなったり、といった事態に陥ります。長年付き合ってきた信頼できる工場であっても、経営者の交代や関係悪化をきっかけにこうした問題が表面化することがあります。
・新しい工場にサンプルやブランド情報を渡して見積もりを取った後
・取引が長期化し、工場側がブランドの将来性を見込んだとき
・委託先との関係が悪化し、相手が嫌がらせや交渉材料を求めたとき
・委託先を変更しようとした矢先に、旧委託先が権利を主張してきたとき
リスク2:輸出品が税関で差し止められる

もう一つの大きなリスクが、製造した製品の輸出時に発生します。自社がブランドだと思って付けた名前やロゴが、すでに中国で第三者に商標登録されていた場合、その製品の製造・輸出が中国の商標権を侵害すると判断され、税関で差し止められるおそれがあるのです。
「製品は全部輸出するのだから、中国国内では売らない。だから侵害にならないはずだ」――かつてはこの理屈が通る傾向にありました。ところが、近年の中国の司法判断はこの考え方を大きく変えつつあります。これがOEM事業者にとって、今もっとも注意すべきポイントです。
重要:「輸出OEMだから侵害にならない」はもう通用しない

中国では、輸出専用のOEM生産(中国語で「渉外OEM」「貼牌」などと呼ばれます)が商標権侵害にあたるかどうかが、長年議論されてきました。その流れを押さえておくことは、OEM事業者にとって非常に重要です。
| 判例 | 最高人民法院の判断 |
|---|---|
| PRETUL事件(2015年) | 輸出専用のOEMは「商標的な使用」にあたらず、侵害にならないと判断。 |
| 東風事件(2017年) | 同様に、輸出OEMは侵害にあたらないと判断。「OEM=非侵害」の実務が定着。 |
| HONDAKIT事件(2019年) | 一転して、製品に商標を付す行為は商標の使用にあたるとし、「OEMだから侵害の例外」という固定的な考え方は避けるべきと判示。侵害を認定。 |
つまり、2015年〜2017年頃は「輸出するOEMなら中国の商標を侵害しない」という考え方が主流でした。しかし2019年のHONDAKIT事件で、最高人民法院はこの流れを転換し、OEMであっても商標権侵害となり得ることを明確にしました。インターネットの普及で輸出品が国境を越えて中国に逆流する可能性なども考慮された判断です。
この変化が意味するのは、「全量輸出だから大丈夫」という従来の安心材料が、もはや確実ではなくなったということです。第三者の中国商標と衝突すれば、たとえOEMの輸出品であっても、製造・輸出が止められ、損害賠償を命じられるリスクが現実にあります。だからこそ、自社で中国の商標を押さえておくことの重要性が、以前にも増して高まっているのです。
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実務上の注意点――BrandAgentの経験から

OEM事業者の方に、当事務所として特にお伝えしたい実務上のポイントを挙げます。
第一に、工場に話を持ちかける「前」に商標を出願するのが理想です。見積もりやサンプル提供の段階で、すでにブランド情報は相手に渡っています。先願主義の中国では、この順番を逆にすると先取りの隙を与えてしまいます。OEMの検討を始めたら、商標出願もセットで考えてください。
第二に、製造前に中国側で先行調査を行うことです。付けようとしているブランドが、すでに中国で第三者に登録されていないかを確認しておけば、税関差止めや侵害トラブルを未然に防げます。特にHONDAKIT以降は、この事前確認の重要性が増しています。
第三に、契約面での手当ても欠かせません。委託先との契約に、商標・知的財産は委託者(自社)に帰属することや、委託先による出願を禁じる条項を入れておくことで、リスクを下げられます。ただし、契約があっても先に登録されてしまえば取り戻しに労力がかかるため、あくまで「自社で先に登録する」ことが土台になります。
・委託先による先取り(冒認出願)を防げる
・第三者商標との衝突による税関差止め・侵害リスクを回避できる
・委託先の変更や複数工場への発注を、自社ブランドのまま自由に進められる
・「全量輸出だから大丈夫」が通用しなくなった今の実務に対応できる
よくある質問(FAQ)
Q. 製品は全部輸出します。それでも中国の商標は必要ですか?
A. はい、必要です。かつては「輸出OEMは侵害にならない」とされていましたが、2019年のHONDAKIT事件以降、OEMでも商標権侵害となり得ると判断されるようになりました。第三者商標との衝突を避けるためにも、自社での登録をおすすめします。
Q. 信頼できる工場なので、先取りの心配はないのでは?
A. 残念ながら、信頼関係があっても先取りは起こり得ます。経営者の交代や関係悪化をきっかけに表面化するケースもあります。「相手を信じる」こととは別に、自社で権利を確保しておくことがリスク管理の基本です。
Q. 契約で「商標は当社のもの」と定めておけば大丈夫ですか?
A. 契約条項は有効な備えですが、それだけでは不十分です。中国は先願主義のため、契約があっても先に登録されると取り戻しに多大な労力がかかります。契約と自社出願の両方で守るのが安全です。
Q. もう工場に商標を取られているかもしれません。どうすれば?
A. まずは現状の調査が必要です。先取りされている場合、異議申立・無効宣告請求・交渉などの手段がありますが、対応は早いほど選択肢が増えます。早急に専門家にご相談ください。
Q. OEMの商標は自分で出願できますか?
A. 外国企業・個人は中国に直接出願できず、必ず現地代理人を通す必要があります。区分の選定や中国語表記の検討も含め、専門家を通じた対応が現実的です。
まとめ:OEMこそ、製造前の商標登録がカギ

中国OEMには、委託先による商標の先取りと、第三者商標との衝突による輸出差止めという2つの大きなリスクがあります。さらに、HONDAKIT事件以降は「輸出専用だから侵害にならない」という従来の前提も崩れ、OEM事業者が商標を軽視できる時代ではなくなりました。
最も確実な対策は、工場に製造を持ちかける前に、自社で中国の商標を取得しておくことです。先願主義・現地代理人の必須化・区分の違いなど、中国の出願は日本と勝手が異なり、契約や調査と組み合わせた総合的な対応が求められます。
特許事務所BrandAgentは、中国の現地代理人と連携し、OEM事業者の中国商標出願・先行調査・リスク対策をサポートしています。「中国の工場に製造委託しているが商標が不安」「委託先に取られていないか確認したい」といったお悩みがあれば、お早めにご相談ください。これまで累計4,000件超、2,000件以上の商標出願をサポートしてきた実績をもとに、御社のOEM体制に合わせた最適な対応をご提案します。中国商標出願をご検討中の方は、BrandAgentまでお気軽にご相談ください。
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