
特許申請に必要な書類って何?
申請から登録まで、どういう流れで進めるの?
特許の取り方のコツも知りたい。
こうした疑問にお答えします。
特許申請(特許出願)は、必要書類の準備・特許庁への提出・審査請求・審査対応という複数のステップで進みます。初めての方には分かりにくい部分も多いですが、流れを理解しておけば迷わず進められます。
この記事では、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の「特許出願書類の書き方ガイド」をはじめとする公的資料をもとに、特許申請の全体像を弁理士・叶野徹がわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
- 特許申請に必要な5種類の書類と役割
- 各書類の作成ポイント(特許請求の範囲・明細書・図面)
- 出願から登録までの手続きの流れ(7ステップ)
- 費用の目安(公費・弁理士手数料)
- 特許を取るための3つのコツと注意点
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まず確認:特許法上の「発明」と「特許を受けられる発明」の条件

出願の前に、自分の発明が特許の対象になるかを確認することが重要です。特許法では、以下の条件をすべて満たす発明だけが保護対象になります。
特許を受けられる発明の4条件(特許法第29条)
- ① 自然法則を利用している:経済法則・数学の定理・ゲームのルール・自然法則そのもの・永久機関は対象外。
- ② 技術的思想である:スポーツの技能・単なる情報提示・美術的創作物は対象外。
- ③ 創作である:天然物の単なる発見などは対象外。
- ④ 高度である:産業に大変革をもたらすものに限らず、従来にない新しい機能を発揮する改良品でも特許の対象になります。
特許を受けられない発明の例
- 新規性なし(特許法第29条第1項):出願前に日本国内外で公然と知られた発明・公然と実施された発明・刊行物やインターネットで公開された発明は特許を受けられません。
- 進歩性なし(特許法第29条第2項):新規であっても、従来技術をほんの少し改良しただけで誰でも簡単に思いつく発明は特許を受けられません。
特許申請に必要な5種類の書類

特許出願には、以下の5種類の書類を作成して特許庁に提出します(特許法第36条)。
| 書類名 | 役割・内容 | 必須 |
|---|---|---|
| ① 願書 | 出願人・発明者の情報、出願日を記載する表紙となる書類。特許庁の指定書式に従って作成。 | ◎ |
| ② 特許請求の範囲 | 特許権の保護を求める範囲(権利範囲)を定める書類。特許権の及ぶ技術範囲はこの記載内容で決まる。最重要書類。 | ◎ |
| ③ 明細書 | 発明の技術的背景・課題・解決手段・効果・実施例を詳細に記載する書類。 | ◎ |
| ④ 図面 | 発明品の構造・形状・機能を図示したもの。化合物の合成方法など図面が不要な場合を除き、実質的に必須。 | △ |
| ⑤ 要約書 | 発明の特徴を400字以内でまとめた書類。課題・解決手段・選択図を記載。 | ◎ |
※書面出願の様式は、INPITホームページ「知的財産相談・支援ポータルサイトの各種申請書類一覧(紙手続の様式)」からダウンロードできます。
各書類の作成ポイント
特許請求の範囲(クレーム)——権利の広さを決める最重要書類
特許請求の範囲は、特許権の及ぶ技術範囲を決める書類であり、出願書類の中で最も重要です。出願後に権利者と侵害者の間で争いになった場合も、この記載内容が基準となります(特許法第70条)。
特許請求の範囲の作成ポイント
- 発明の範囲を明確に定義する:従来技術と自分の発明の違いが明確になるように記載します。
- 広すぎず狭すぎず:細かく書きすぎると権利範囲が狭くなり、競合に抜け道を作ってしまいます。一方、広すぎると従来技術と抵触して拒絶されます。この「バランス」の判断が最も難しい部分です。
- 複数の請求項を設ける:【請求項1】【請求項2】…と連続した番号で記載できます。独立した権利として使える複数の請求項を設けることで、より強固な権利構造を作れます。
明細書——審査官に発明のポイントを伝える書類
明細書には、以下の項目を段落番号(【0001】など)をつけながら記載します。
- 【技術分野】:発明が属する技術分野
- 【背景技術】:既存技術の問題点・発明が解決しようとする課題
- 【先行技術文献】:関連する特許公報・論文等
- 【発明の概要】:課題を解決するための手段・発明の効果
- 【図面の簡単な説明】:添付図面の説明(図1、図2…の順)
- 【発明を実施するための形態】:発明の具体的な実施例(特に化学分野では実施例は必須)
- 【符号の説明】:図面の各部分に付けた符号(番号)の説明
文章は明確・簡潔に。「明細書を見れば誰もがその発明を実施できる程度」まで具体的に記載することが求められます(特許法第36条第4項)。アイデアや思いつきだけでは権利になりません。
図面——白黒・符号付きで正確に
図面には以下のルールがあります。
- 原則白黒:白黒でも構造が明確に分かるように描写する必要があります。
- 符号(番号)を記載:各構成要素にアラビア数字の符号をつけ、明細書で説明します。引出線で符号を付けます。
- 図番号:【図1】【図2】のように連続番号を図の上部に付けます。
- 1ページに1図番:異なる図番号を付けた図を横に並べたり、1つの図番号を複数ページにわたって描いてはいけません。
願書——出願人・発明者の正確な記載
願書には出願人(特許権を取得する権利を有する人・団体)と発明者(発明を創造した人)を正確に記載します。
注意:申請人・発明者の情報は原則あとから変更できない
出願人と発明者の情報は慎重に確認してから記載してください。特に法人の場合は【代表者】欄を設けて代表者氏名を記載します。識別番号を取得している場合は【住所又は居所】欄を省略できます。
特許申請の手続きの流れ(出願から登録まで7ステップ)

出願から特許権取得まで、以下の流れで進みます。
Step 1:事前調査(J-PlatPat)
出願前に、同じ発明がすでに公知になっていないか、類似する特許が出願・登録されていないかを確認します。特許庁が提供する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で無料検索できます。
調査の目的は2つあります。①公知の有無の確認(すでに登録されている発明に出願しても拒絶されます)と、②明細書・図面の作成手本の入手(近い発明の公報を参考に書き方を学べます)。
Step 2:出願書類の作成と特許庁への提出
5種類の書類(願書・特許請求の範囲・明細書・図面・要約書)を特許庁の指定様式で作成し、提出します。
提出方法は3通りです。
出願書類の提出方法
- ①特許庁へ持参:特許庁出願課出願受付(特許庁庁舎1階)に直接持参。
- ②郵送:〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 宛。宛名面余白に「出願書類 在中」と記載し、書留・簡易書留・特定記録郵便で郵送。
- ③オンライン(電子出願):電子証明書・ICカードリーダー等の事前準備が必要。電子化手数料が不要になるメリットがあります。詳細は「電子出願ソフトサポートサイト」を参照。
重要:書面(紙)で出願する場合は電子化手数料がかかります
書面(持参・郵送)で出願した場合、別途電子化手数料(2,400円+書類の枚数×800円)が発生します。出願書類の提出から数週間後に「一般財団法人工業所有権電子情報化センター(PAPC)」から払込用紙が届きますので、30日以内に振り込みます。納付がないと出願が却下されるので注意してください。
出願手数料の納付:書面出願の場合は、願書の左上部余白に14,000円分の特許印紙を貼って納付します(収入印紙は不可)。特許印紙は全国の集配郵便局等で購入できます。割り印は押さないでください。
Step 3:方式審査
特許庁は提出書類が法令で定めた方式要件に適合しているかをチェックします。不備があると補正指令が届きます。応答しない場合は出願が却下されます。
Step 4:出願審査請求(必須・3年以内)
重要:出願しただけでは審査は始まりません
特許出願(申請)をしただけでは特許庁による実体審査は始まりません。出願から3年以内に「出願審査請求書」を別途提出する必要があります(特許法第48条の3)。審査請求期間内に請求しなかった出願は取り下げたものとみなされます。商標出願と異なり、特許出願では審査請求が必須である点に注意してください。
出願審査請求書の様式はINPITのポータルサイトから入手できます。手数料は138,000円+請求項数×4,000円です(令和8年4月現在)。
Step 5:実体審査・審査結果の通知
審査官による実体審査が行われます。審査結果は以下の2通りです。
【登録査定の場合】査定の謄本が送達された日から30日以内に登録料(特許料第1〜3年分を一括)を納付すると、設定登録されて特許権が発生します(特許法第66条)。この期限を過ぎると却下処分になりますので注意が必要です。
【拒絶理由通知の場合】補正書・意見書を提出して再審査を求めます。一発で審査に通る確率は非常に低く、1〜2回の拒絶理由通知は想定内と考えておいてください。補正書・意見書の対応を経て登録されるケースがほとんどです。
意見書・補正書で拒絶理由が解消されない場合は「拒絶査定」が通知されます。この場合は拒絶査定不服審判(特許法第121条)を請求することができます。
Step 6:出願公開
出願日から1年6ヶ月後に出願内容が公開特許公報として公開されます(特許法第64条)。取り下げなどがあったものを除き、原則としてすべての出願が公開されます。ノウハウとして秘密にしたい技術は出願書類に記載しないよう注意してください。
Step 7:特許権の維持(年金の納付)
特許権の存続期間は出願日から最長20年です(存続期間の延長登録があったものは最長25年)。第4年目以降も権利を維持するには、各年分の特許料(年金)を前年以前に納付する必要があります。納付期限を過ぎた場合でも、6ヶ月以内であれば割増特許料と合わせて納付することで権利を維持できます。
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特許申請から登録までの費用目安

費用は「特許庁に納める公費」と「弁理士に依頼する場合の手数料」に分かれます。
| 手続き | 公費(特許庁) | 備考 |
|---|---|---|
| 出願料 | 14,000円 | 請求項数によらず一律 |
| 電子化手数料(書面出願の場合) | 2,400円+枚数×800円 | 電子出願なら不要 |
| 出願審査請求料 | 138,000円+請求項数×4,000円 | 請求項5なら158,000円 |
| 登録料(第1〜3年・一括) | (4,300円+請求項数×300円)×3 | 請求項5なら17,400円 |
| 公費合計目安(請求項5の場合) | 約189,400円 | 令和8年4月現在 |
弁理士に依頼した場合、出願手数料・登録時の成功報酬・拒絶対応費用を含めると、総額80〜100万円程度が目安です(日本弁理士会アンケートデータより)。詳しい費用解説はこちら。
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特許を取るための3つのコツ

特許出願で失敗しないための3つのポイント
- ① できるだけ早く出願する:特許権は先願主義。同じ発明でも先に出願した者が権利を取得します。似た内容の発明が日本国内外で知れ渡ってしまうと「公知の発明」として特許が取れなくなります。
- ② 出願するまで内容を公開しない:展示会・学会・プレスリリース・カタログ配布などで発明内容を公開すると「新規性喪失」となり、原則として特許が取れなくなります(特許法第29条第1項)。出願を済ませてから公開するのが鉄則です。※公開から1年以内であれば「新規性喪失の例外」(特許法第30条)の手続きがありますが、手続きが煩雑な上に確実ではないため、公開前出願が最善です。
- ③ 価値のある発明だけを出願する:技術的評価・市場評価を勘案した上で出願しましょう。特許出願は経済的にかなりの負担になります。「取れる特許」より「使える特許・守れる特許」を目指すことが重要です。
特許申請:自力でやるか、弁理士に依頼するか

特許出願は個人でも可能ですが、弁理士に依頼するメリットがあります。
| 自力出願 | 弁理士への依頼 | |
|---|---|---|
| 費用 | 公費のみ(安い) | 公費+弁理士手数料 |
| 登録可能性 | ノウハウなしでは低い | 高い |
| 権利範囲の設計 | 狭くなりがち | 最大化を目指せる |
| 拒絶対応 | 自力で対応(難易度高) | 専門家が対応 |
| 時間・手間 | 書類作成に数十〜数百時間 | ヒアリングだけでOK |
「費用は安く抑えたいが、ほしい権利範囲で確実に取りたい」という方には弁理士への依頼をお勧めします。特許請求の範囲の書き方で権利の強さが大きく変わるため、最初の設計を誤ると後から取り返しがつかないことがあります。
まとめ:特許申請は「早く・正確に・戦略的に」

この記事のまとめ
- 特許出願に必要な書類は5種類:願書・特許請求の範囲・明細書・図面・要約書。
- 出願しただけでは審査は始まらない。3年以内に「出願審査請求」が必須。
- 書面(紙)で出願する場合は電子化手数料(2,400円+枚数×800円)が別途必要。
- 拒絶理由通知は1〜2回来るのが通常。補正書・意見書で対応して登録を目指す。
- 出願前に発明を公開しないこと・できるだけ早く出願することが失敗しないための鉄則。
- 特許請求の範囲の設計が権利の強さを決める。専門家への依頼が登録可能性と権利範囲の最大化に有効。
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