
こうした疑問にお答えします。
ネット通販の普及で、海外で製造された模倣品が日本に直接送られてくるケースが増えています。国内で出回ってから一つずつ対処するのは大変ですが、日本の税関には、知的財産権を侵害する貨物の輸入を水際で止める制度があります。その入口になるのが「輸入差止申立て」です。
この記事では、特許事務所BrandAgentの弁理士・叶野徹が、輸入差止申立ての仕組み、必要な書類と識別ポイント、税関での認定手続の流れ、2022年10月からの個人宛て模倣品の扱いについて解説します。自社ブランドを持つメーカーの方はもちろん、海外ブランドの日本総代理店・輸入元の方にも役立つ内容です。
※制度の内容は2026年11月時点で税関のウェブサイトで確認したものです。
この記事でわかること
- 税関で止められる知的財産侵害物品と、申立てができる人
- 輸入差止申立ての受理要件・必要書類・有効期間
- 税関が真贋を見分けるための「識別ポイント」の作り方
- 貨物が見つかった後の認定手続の流れ
- 2022年10月からの、海外事業者から個人宛ての模倣品の扱い
税関で止められるもの:商標だけでなく意匠・特許も対象
関税法では、知的財産権を侵害する物品は輸入してはならない貨物とされています。対象となる権利は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・著作隣接権・育成者権などで、輸入については回路配置利用権も含まれます。不正競争防止法に違反する一定の物品も対象で、この場合は経済産業大臣の意見書等が必要です。
実際に差し止められる物品は、ブランドロゴを付けた偽物など商標権侵害品が中心ですが、デザインを真似た商品(意匠権)や、特許技術を無断で使った製品も対象になります。
輸入差止申立てとは
輸入差止申立ては、権利者が税関に対して「自社の権利を侵害する貨物が輸入されようとしているので、見つけたら認定手続を執ってほしい」と申し立てる制度です。申立てが受理されると、全国の税関で侵害が疑われる貨物の取締りに活用されます。
輸入差止申立ての基本
- 申立てできる人:権利者、専用実施権者、専用使用権者など(代理人として弁護士・弁理士も手続可能。委任状が必要)
- 手数料:税関に納める手数料はかかりません
- 有効期間:最長4年。更新申請で更新できます
- 前提:原則として登録済みの権利が必要(出願中の権利では申し立てられません。著作権等は登録不要)
海外ブランドの日本総代理店の場合、自社が専用使用権者として登録されていれば自ら申し立てることができます。通常使用権(いわゆる一般的なライセンス)だけでは申立人の範囲に含まれていないため、ブランドオーナー(権利者)の名義で申し立てるのが一般的です。
受理されるための4つの要件
税関は、次の点を審査して申立てを受理するかどうかを判断します。
- 申立人が権利者等であること
- 権利の内容に根拠があること
- 侵害の事実があること(輸入されることが見込まれる場合を含む)
- 侵害の事実を確認できること
加えて、税関の職員が真正品と侵害品を見分けられなければ、実際に差し止めることはできません。そのため「識別ポイント」の提出が重要になります。
必要書類と識別ポイント
商標権に基づく申立ての場合、税関の申立書様式では、主に次の添付資料が求められています。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 登録原簿の謄本 | 権利者・権利の存続を示すもの |
| 商標公報 | 登録商標と指定商品の確認 |
| 侵害の事実を疎明する資料 | 侵害品全体の写真など。標章が登録商標と同一・類似で、指定商品と同一・類似であることを示す |
| 識別ポイントに係る資料 | 真正品と侵害品の見分け方 |
| その他(任意) | 警告書など |
| 委任状 | 代理人が手続する場合(委任の範囲を明示) |
判決書や仮処分決定、特許庁の判定書、鑑定書などを提出する場合は、侵害理由の疎明資料に代えることができるとされています。申立てを希望する期間は4年以内で記載しますが、登録料が納付されていない期間は有効期間として受理されないため、登録料を分割納付している商標は注意が必要です。
識別ポイントの作り方
識別ポイントは、税関の現場で職員が短時間で判断できるようにまとめることが大切です。
- 真正品と侵害品の写真を並べ、違いがある箇所に印を付ける
- ロゴの形、タグ・ラベルの書式、縫製、パッケージの印刷、シリアル番号の付け方など、外から確認できる違いを中心にする
- 正規品の製造国・正規の輸入ルートなど、取引上の特徴もわかれば記載する
- 商品が新しくなったら識別資料も更新する
貨物が見つかった後の流れ(認定手続)
税関の検査で侵害の疑いがある貨物が見つかると、侵害物品に該当するかどうかを判断する「認定手続」が始まります。
- 1. 通知:税関から権利者と輸入者の双方に通知されます。権利者には輸入者・仕出人の氏名や住所が知らされます。
- 2. 証拠・意見の提出:双方が期限までに証拠や意見を提出できます。貨物の点検や、画像をメールで受け取ることもできます。
- 3. 見本検査:権利者は、申立てに係る貨物について、一定の要件のもと供託を行ったうえで見本検査を申請できます(輸入のみ)。
- 4. 認定:税関はおおむね1か月以内を目途に認定を行います。
- 5. 結果:非該当なら輸入が許可されます。該当の場合、輸入者が自発的処理をしなければ、不服申立期間(3か月)経過後に税関が没収して廃棄します。
また、輸入差止申立てに係る貨物で輸入者が争わない場合には、簡素化された手続があります。輸入者は通知を受けた日から10執務日以内に、侵害に当たらない旨を書面で申し出なければ、税関長が申立書と添付資料に基づいて認定します。申立ての段階で資料をしっかり整えておくことが、迅速な差止めにつながります。
2022年10月から:海外事業者が個人に送る模倣品も没収の対象に
個人使用目的でも輸入できない
2021年の商標法・意匠法の改正により、海外の事業者が郵送等で日本に模倣品を送ることが商標権・意匠権の侵害になることが明確化されました。これを受けた関税法の改正により、2022年10月1日から、海外の事業者から送られてくる商標権・意匠権の侵害品は、受け取る個人が自分で使うためであっても輸入できず、税関による没収の対象となりました。
以前は、個人が自分で使うために輸入する物品は「業として」の輸入ではないため、商標権侵害として止めにくいという問題がありました。この改正で、海外の通販サイトから個人宛てに直接送られる模倣品にも対応しやすくなっています。なお、この改正の対象は商標権と意匠権で、特許権や著作権は含まれていません。
権利者にとっては、少量の個人宛て郵便物でも差止めの対象になり得るということです。ネット通販で模倣品が売られているブランドほど、輸入差止申立てをしておく意味が大きくなっています。
輸入差止めとあわせて考えたい模倣品対策
税関での差止めは強力な手段ですが、すべての模倣品を水際で止められるわけではありません。日本国内の倉庫から発送される模倣品や、すでに国内に入ってしまった商品には、別の対策が必要です。
- ECモールへの権利侵害申告:国内のECモールで販売されている模倣品は、各モールの申告手続で削除を求めます。
- 警告書の送付:販売者が特定できる場合は、登録商標・登録意匠に基づいて販売中止を求めます。
- 権利の補強:ロゴだけでなく文字商標、商品の形状について意匠登録など、模倣のされ方に合わせて権利を追加します。
輸入差止申立ては、こうした国内での対策と組み合わせることで効果が高まります。どの手段から始めるべきかは、模倣品の流通経路によって変わります。
申立ての前に準備しておきたいこと
- 日本での権利の確保:商標・意匠が日本で登録されていることが前提です。出願中では申し立てられません。
- 権利範囲の確認:模倣品が指定商品(意匠なら物品)の範囲に入っているかを確認します。
- 真正品・侵害品のサンプル:試し買いした模倣品があれば、識別ポイント作成に役立ちます。
- 社内の連絡体制:認定手続の通知が来たら、限られた期間内に意見や証拠を出す必要があります。
まだ日本で商標登録をしていない場合は、まず出願から始めます。商標の特許庁費用は出願時3,400円+8,600円×区分数、登録時(10年)32,900円×区分数、弊所手数料は出願時1区分25,000円・登録時1区分25,000円(税別)です。輸入差止申立ての手続費用は内容によって異なるため、無料でお見積りします。
よくある質問
- Q. 輸入差止申立てに費用はかかりますか?
A. 税関に納める手数料はかかりません。代理人に依頼する場合の費用や、見本検査の際の供託などは別途必要になることがあります。 - Q. 出願中の商標でも申し立てられますか?
A. できません。原則として登録された権利が必要です。 - Q. 日本の代理店でも申し立てられますか?
A. 専用使用権者として登録されていれば可能です。そうでない場合はブランドオーナー名義で申し立てます。 - Q. 申立ての効力はどれくらい続きますか?
A. 最長4年で、更新申請により更新できます。 - Q. 個人が自分で使うために買った模倣品も止められますか?
A. 2022年10月1日から、海外の事業者が送る商標権・意匠権の侵害品は、個人使用目的でも輸入できず、没収の対象になりました。特許権・著作権の侵害品はこの改正の対象外です。
まとめ
- 税関は、商標権・意匠権・特許権などを侵害する貨物の輸入を水際で止めることができます。
- 輸入差止申立ては手数料不要、有効期間は最長4年(更新可)です。
- 登録済みの権利と、侵害の疎明資料・識別ポイントの準備が欠かせません。
- 認定手続では、限られた期間で証拠・意見を出す必要があります。
- 2022年10月から、海外事業者が個人に送る商標権・意匠権侵害品も没収の対象です。
弊所はこれまで4,000件超の出願を扱い、すべての案件を弁理士本人が担当しています。模倣品対策や輸入差止申立てをご検討の方は、特許事務所BrandAgentまでお気軽にご相談ください。