
商標の更新登録の期限を過ぎてしまった…権利は消えてしまうの?
うっかり手続きを忘れたときに、救済される方法はある?
「故意によるものでない」って、どういう基準なの?
こうした疑問に弁理士が解説します。
商標権の更新登録や特許料の納付など、知的財産に関する手続きには期限があります。
期限を過ぎてしまうと権利が消滅してしまう——そのような事態に直面したとき、
「期間徒過後の救済制度」
が役に立つことがあります。
令和5年4月1日以降、この救済制度の要件が大きく緩和されました。
この記事では、
制度の概要 → 対象となる手続き → 申請方法と注意点 → 救済が認められないケース
の順に、わかりやすく解説します。
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結論:期限を過ぎてしまっても、「故意によるものでなければ」救済申請ができます。
- 令和5年4月1日以降に期限を徒過した手続きが対象
- 「故意でない」ことを示す回復理由書の提出が必要
- 回復手数料の納付が必要(商標の場合:86,400円)
- 社内の方針転換や経営判断による期限超過は救済されない
この記事でわかること
- 「故意によるものでないこと」による救済制度の概要
- 令和5年4月1日以降の制度変更のポイント
- 商標に関して対象となる手続きの種類
- 回復理由書に書くべき内容
- 救済が認められないケースの具体例

- 関西の特許事務所と大手法律事務所と大手企業知財部で合計10年ほどの知財実務を積んできました。
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制度の概要:要件が「正当な理由」から「故意でないこと」へ緩和

令和3年に成立した「特許法等の一部を改正する法律」により、令和5年4月1日以降に期限を徒過した手続きについては、権利回復の要件が変わりました。
| 改正前(令和5年3月31日以前) | 改正後(令和5年4月1日以降) |
|---|---|
| 「正当な理由があること」 → 厳しい要件で認められにくかった |
「故意によるものでないこと」 → うっかりミスなどでも申請しやすくなった |
「正当な理由」は証明のハードルが高く、救済されにくいケースも少なくありませんでした。「故意でない」という基準への緩和により、期限超過に気づいたときに申請しやすくなっています。
ただし、令和5年3月31日以前に期限を徒過した手続きは旧要件(正当な理由)が適用されます。
商標に関して対象となる主な手続き

この救済制度は、特許・実用新案・意匠・商標の計18種類の手続きが対象です。
商標に関係する手続きとしては、以下の4つが対象です。
商標に関係する対象手続き
- 商標権の更新登録の申請(商標法第21条)
10年ごとの更新登録を期限内に行えなかった場合 - 後期分割登録料・割増登録料の追納(商標法第41条の3)
分割納付の後期分を納め忘れた場合 - 防護標章登録に基づく権利の存続期間の更新登録(商標法第65条の3)
- 書換登録の申請(商標法附則第3条)
中小企業・個人事業主にとって特に関係が深いのは、「商標権の更新登録の申請」と「後期分割登録料の追納」です。
救済申請ができる期間(提出期限)

救済申請(回復理由書の提出)ができる期間は、以下の2つの条件を両方とも満たす期間内に限られます。
回復理由書の提出期間(商標の場合)
- 手続ができるようになった日(気づいた日)から2ヶ月以内
- 手続期間の経過後6ヶ月以内(商標の場合。特許は1年以内)
具体的には、「期限を超過したことに気づいた日」が起算点になります。気づいたらできるだけ早く行動することが大切です。
なお、特許の場合は手続期間の経過後1年以内という点で商標と異なります。
回復理由書に書くべき3つの内容

救済申請では、所定の手続き書面と合わせて「回復理由書」を提出します。
回復理由書の【回復の理由】欄には、以下の3点を記載します。
① 手続できなかった理由と、できるようになった日
期限を超過した原因や経緯を、数行程度で簡明に記載します。
あわせて、「手続ができるようになった日」(=期限超過に気づいた日)も記載してください。
② 故意によるものでない旨の表明
期限を超過したのが故意ではなかったことを表明します。
特許庁のガイドラインには以下の記載例が示されています。
③ 審査請求の遅延を目的としていない旨(出願審査請求の場合のみ)
出願審査の請求に係る回復理由書を提出するときのみ、審査の遅延を目的としていなかった旨を記載します。
なお、証拠書類の提出は原則として必須ではありませんが、特許庁から求められる場合があります。
回復手数料はいくらかかる?
「故意でない基準」での救済申請には、回復手数料の納付が必要です。令和5年4月の改正で新たに設けられたルールです。
| 法域 | 回復手数料 |
|---|---|
| 特許 | 212,100円 |
| 実用新案 | 21,800円 |
| 意匠 | 24,500円 |
| 商標 | 86,400円 |
ただし、手続きをする者の責めに帰することができない理由(不責事由)がある場合は、回復手数料が免除されることがあります。その場合は、回復理由書と同時に上申書を提出し、2ヶ月以内に証拠書類を提出する必要があります。
救済が認められないケース(要注意)
この制度で最も重要な注意点が「どんなケースでも救済されるわけではない」という点です。
期限を超過した理由が「故意に手続をしなかった」と判断された場合は救済が認められません。
特許庁のガイドラインには、救済が認められない可能性がある具体的な事例が7つ示されています。
救済が認められない可能性がある事例(特許庁ガイドラインより)
- 事例1:社内の方針転換
審査請求が不要と判断して期限超過後、社内方針が変わって申請した場合 - 事例2:現地代理人への支払い遅延
料金未払いを理由に国内移行手続を行わず、その後方針転換した場合 - 事例3:権利放棄後に他社が関心を示した
維持しないと決めて特許料を納付しなかった後、他社の問い合わせで方針転換した場合 - 事例4:金銭的事情による経営判断
融資が受けられず維持しないと判断した後、経営改善で方針転換した場合 - 事例5:廃業後の後継者就任
廃業を理由に商標権の更新をしなかった後、後継者が就任して事業再開した場合 - 事例6:共有者間の調整不足
維持を諦めた判断の後、共有者間で合意が取れて方針転換した場合 - 事例7:補充指令を無視して却下された
権利維持の必要がなくなったとして補充手続を行わず、後から考えを改めた場合
共通するのは、「一度、手続きをしないという意思決定をしていた」という点です。「うっかり忘れていた」のではなく「意図的にしなかった後、事情が変わった」ケースは救済の対象外になります。
BrandAgentでは、これまで2,000件以上の商標出願をサポートしています。更新や登録料の管理についてもご相談いただけます。
よくある質問(FAQ)
- Q. 令和5年3月31日以前に期限を超過した場合はどうなりますか?
A. 旧要件の「正当な理由があること」が適用されます。「故意でない基準」は令和5年4月1日以降に期限を徒過した手続きのみが対象です。 - Q. うっかり更新登録の期限を忘れた場合、救済申請はできますか?
A. 故意ではなく忘れていたという事情であれば、救済申請の対象になり得ます。気づいた日から2ヶ月以内・手続期間経過後6ヶ月以内(商標)に回復理由書を提出してください。 - Q. 回復手数料が高額ですが、免除を受けられる場合はありますか?
A. 手続きをする者の責めに帰することができない理由(不責事由)がある場合は免除申請が可能です。同時に上申書を提出し、2ヶ月以内に証拠書類の提出が必要です。 - Q. 救済申請が認められなかった場合、手数料は返ってきますか?
A. 回復要件を満たさないと判断された場合でも、原則として回復手数料は返還されません。申請前に弁理士への相談をおすすめします。 - Q. 代理人(弁理士)が回復理由書を提出できますか?
A. できます。事件の代理人が提出する場合は委任状は不要ですが、新たな代理人が提出する場合は委任状が必要です。
まとめ

この記事のポイント
- 令和5年4月1日以降の期限徒過は「故意でないこと」を示せば救済申請が可能
- 商標の場合、気づいた日から2ヶ月以内・期間経過後6ヶ月以内が申請期限
- 回復理由書に「できなかった理由」「故意でない旨の表明」を記載する
- 商標の回復手数料は86,400円(不責事由があれば免除申請が可能)
- 社内方針転換・経営判断など「一度しないと決めた後の変更」は救済されない
商標権の更新を忘れてしまった、登録料の納付期限を過ぎてしまった、というご相談は少なくありません。まずは状況を確認し、救済申請が可能かどうかを早急に判断することが大切です。お気軽にご相談ください。