
こうした事態は、決して珍しい話ではありません。原因の多くは「日本と同じ感覚で中国に出願してしまった」ことにあります。中国商標制度には、日本にはない独自の「サブクラス(類似群)制度」が存在し、これを正確に理解しないまま出願すると、権利の範囲に深刻な「穴」が生じます。
本記事では、弁理士・叶野徹が、中国商標実務における最大の落とし穴とその対策を、具体例を交えて解説します。
・中国商標には「サブクラス(類似群)」制度があり、同じ区分(クラス)内でも細かく分断される
・サブクラスが違えば「別の商品」と見なされ、他人の商標登録を許してしまう
・区分表にない独自用語を使うと、審査が止まり追加コストが発生する
・「通る・守れる」願書を作るには、中国の実務に精通した専門家が不可欠
日本と中国、「区分」の見え方がまったく違う

商標を登録する際、「第25類=被服・履物・帽子」という区分の概念は、日本でも中国でも同じニース国際分類に基づいています。そのため「日本で第25類に出願したのだから、中国でも第25類を指定すれば同じ保護が得られるはずだ」と考える方が非常に多いです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
日本では、第25類の「被服」は一つのまとまりとして扱われ、類似群コードが付与されています。同じ類似群コードの商品同士は「類似商品」と推定されるため、例えばTシャツで商標を取得していれば、ジャケットやコートも含めて広い範囲で権利が及ぶ仕組みです。
一方、中国では第25類の内部がさらに細かく分断されています。中国商標局の「類似商品・役務区分表」では、第25類だけでも13のサブクラス(2501〜2513)に分かれており、それぞれが原則として独立した権利単位として扱われます。
この違いが、致命的なリスクを生み出します。
中国商標制度の核心「サブクラス」とは何か

中国のサブクラス制度を端的に説明すると、「同じ区分(クラス)の中にある商品でも、サブクラスが違えば原則として非類似と判断される」というルールです。
日本では考えにくい話ですが、中国の審査実務では、同じ第25類の衣料品であっても、サブクラスをまたいだ商品の間には権利が及ばないとされています。つまり、あるサブクラスで商標を登録していても、別のサブクラスの商品については第三者が同じ商標を登録できてしまうのです。
具体的な例で確認してみましょう。
失敗例:アパレルブランドの落とし穴
日本のアパレルメーカーA社は、中国進出にあたり第25類で商標を出願しました。指定商品は日本側の代理人が翻訳した「衣類(2501)」のみ。コスト削減を意識して、最低限の商品だけを指定したつもりでした。
ところが中国市場で展開を始めると、自社ブランド名と同一の商標が「帽子(2508)」で中国企業に登録されていることが判明。帽子は2501の「衣類」とはサブクラスが異なるため、A社の権利はまったく及ばず、帽子の販売を止めることも、商標権侵害を主張することもできなかったのです。
この事例は決して極端なケースではありません。第25類のサブクラスを改めて整理すると、以下のように明確に分かれています。
| サブクラス番号 | 主な商品 |
|---|---|
| 2501 | 衣類(一般的な洋服・コート等) |
| 2502 | 幼児紡績用品(ベビー服等) |
| 2503 | 特殊運動服(スポーツウェア) |
| 2504 | 不浸透性の服(レインコート等) |
| 2507 | 靴(一般的なシューズ) |
| 2508 | 帽子 |
| 2509 | 靴下 |
| 2510 | 手袋(特殊手袋を除く) |
| 2511 | ネクタイ・マフラー・ストール等 |
| 2512 | ベルト・帯 |
このテーブルを見ると、Tシャツ(2501)、靴下(2509)、帽子(2508)、ベルト(2512)がすべて別のサブクラスに属していることがわかります。「第25類を指定したから大丈夫」という認識は、中国では完全に誤りなのです。
BrandAgentでは、これまで2,000件以上の商標出願をサポートしています。その経験の中で「サブクラスの見落とし」による権利の穴は、最も多く目にするトラブルのひとつです。
「独自用語」の乱用が招く審査遅延と追加コスト

サブクラスの問題と並んで、実務上よく発生するのが「指定商品の名称」に関するトラブルです。
中国商標局には、商標出願時に指定できる商品・役務の名称を定めた「類似商品及び役務の区分表(規範名称リスト)」があります。これに掲載されている名称を「規範名称」と呼び、出願人はこのリストに沿った名称を指定することが強く求められています。
ところが、日本語の指定商品をそのまま機械的に中国語に翻訳したり、自社商品の特徴を独自の言葉で表現しようとしたりすると、規範名称リストに存在しない名称が生まれてしまいます。こうした「非規範名称」で出願すると、何が起きるのでしょうか。
非規範名称出願のリスク
①補正通知書の発行:商標局から補正を求める通知が届き、30日以内に規範名称への変更または削除を迫られます。この手続きにより、審査全体が1〜2ヶ月遅れることになります。
②一発却下のリスク:補正通知の指示に従わなかった場合、商標局は「不受理通知」を発行することができます。この場合は出願自体がなかったことになり、再出願が必要となります。先願主義の中国では、この間に第三者に出願されてしまう危険もあります。
③追加費用の発生:補正対応には現地代理人への追加作業費用が発生するほか、再出願となれば出願費用を二重に支払うことになります。
格安の出願代行サービスを利用した場合、こうした実務上の細かいノウハウが共有されないケースが少なくありません。「出願は完了しました」という報告を受けながら、実は商標局から補正通知が届いていたということも起こり得ます。
また、補正によって商品の名称を変更せざるを得なくなった場合、当初意図していた保護範囲とは異なる内容で登録されてしまうリスクもあります。つまり「安く出願できた」つもりが、後から大きなコストと権利の穴を生む結果になりかねないのです。
戦略的・精密な区分選定こそが中国商標の要

では、こうした落とし穴を避けるにはどうすればいいのでしょうか。答えは「最初の出願設計」にあります。
弁理士・叶野徹は、累計4,000件超の日本への商標出願をサポートしてきた知見を活かし、中国出願においても以下のアプローチで「通る・守れる」願書を設計します。
叶野徹弁理士の中国商標出願アプローチ
① ビジネスモデルを起点としたサブクラスの精密マッピング
お客様の事業内容・販売予定商品・将来の展開計画をヒアリングし、現在および将来にわたって必要なサブクラスを網羅的に特定します。「帽子を売る予定はないから2508は不要」という判断も、冒認対策の観点からは禁物です。第三者に先取りされやすいサブクラスを優先的にカバーする戦略的な出願設計を行います。
② 規範名称リストに基づく正確な商品表記
中国商標局の規範名称リスト(区分表)に準拠した名称を選定し、補正通知・却下のリスクをゼロに近づけます。日本語の指定商品からの単純翻訳ではなく、中国の審査実務に合致した表記を一から組み立てます。
③ 現地代理人との連携による最新審査傾向の把握
中国商標審査の基準は定期的に更新されます。現地の信頼できる代理人と緊密に連携し、直近の審査動向・拒絶傾向を踏まえた出願戦略を立案します。
④ マドプロ出願 vs 直接出願の最適選択
中国への商標出願はマドリッドプロトコル(マドプロ)経由でも可能ですが、指定商品の柔軟性や審査対応の観点から、直接出願が適したケースも多くあります。お客様の状況に合わせて最適な手続きルートを選定します。
特に重要なのは「①のサブクラスの精密マッピング」です。実際のご相談事例では、お客様が「5〜6つのサブクラスで十分」とお考えだったところ、事業内容を詳しくヒアリングした結果、10以上のサブクラスをカバーする必要があることが判明したケースもあります。
「出願範囲を広げる=費用が増える」という認識をお持ちの方も多いですが、サブクラス1つあたりの追加費用と、後から冒認商標に対応する際の費用(異議申立・無効審判・商標譲渡交渉など)を比較すれば、最初に適切に出願する方が圧倒的に経済的です。
「安い出願」が生む、見えないコスト

インターネット上には「中国商標登録〇万円〜」という格安サービスが多数存在します。コスト意識の高い経営者の方には魅力的に映るかもしれません。しかし、中国商標実務の複雑さを考えると、初期費用の安さだけで判断することには大きなリスクが伴います。
格安サービスの多くは、指定商品の選定をお客様任せにしていたり、サブクラスの戦略的な検討を省略していたりします。また、現地代理人との連携が薄く、最新の審査傾向が反映されないケースも見受けられます。
結果として起こり得るシナリオを考えてみてください。
商標出願後に中国でビジネスが軌道に乗り始めた頃、サブクラスの穴を突かれて類似商標が登録される。これを取り消すための無効審判には数十万円単位のコストと、1〜2年以上の時間がかかります。その間、該当する商品の販売が制限されたり、消費者の混乱が生じたりするビジネスへの影響は計り知れません。
最初の出願設計を「コスト」として見るのではなく、「ブランドへの投資」として考えることが、中国でのビジネスを長期的に守る上で不可欠です。
あなたの出願プラン、穴はありませんか? 日本国商標出願累計4,000件の実績を持つ弁理士が無料で診断します。
「今の出願内容で大丈夫か確認したい」「これから中国に出願予定で、どのサブクラスをカバーすべきか相談したい」—そんなご要望にも、お気軽にどうぞ。
特許事務所BrandAgent
弁理士 叶野徹
まとめ:中国商標は「設計」が9割

本記事の要点を整理します。
中国商標出願で押さえるべきポイント
・中国にはサブクラス(類似群)制度があり、同じ区分でもサブクラスが違えば非類似と判断される
・第25類(被服)だけでも13のサブクラスがあり、Tシャツ・靴・帽子・靴下・ベルトはそれぞれ別サブクラス
・規範名称(区分表に記載された商品名)以外を指定すると、補正通知・審査遅延・追加コストが発生する
・「安い出願」の裏に潜む権利の穴は、後から埋めようとすると何倍ものコストがかかる
・中国商標は「最初の出願設計」が全ての鍵を握る
中国でのブランド保護は、進出前の早い段階から、現地の実務に精通した専門家と一緒に取り組むことが何より重要です。「とりあえず出願した」という状態では、せっかく育てたブランドを守ることができません。
叶野徹弁理士は、日本国商標出願累計4,000件超の実績と現地代理人との緊密なネットワークを通じて、お客様のビジネスに合った「穴のない」中国商標戦略をご提案します。現在の出願内容の診断から、これから始める出願設計まで、まずはお気軽にご相談ください。